中国が少数民族に抑圧的な政策を採る構造的要因 「中華民族」という共同体のゆがみと日本の課題

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2008年の北京五輪に先立つチベット独立運動や、2009年の新疆ウルムチにおける衝突は、このような流れの結果であった。以来、中国はチベットで、人々にダライ・ラマ14世を「分裂主義者」と批判させる動きをいっそう強めた。また中国は、2001年の米国同時多発テロ事件や2009年のウルムチ事件などをうけて、「イスラム恐怖主義分子」の問題を強調するようになった。

以来、漢族を中心とする中国の主流社会の立場から、改革開放以来の少数民族政策は失敗だったという議論が生じた。「中華民族」の内部は一律に平等であるべきところ、さまざまな民族を識別し個別に優遇することは「中華民族」の分断であり、漢族こそ逆差別されていると見なす発想のもと、胡錦濤政権時代から少数民族教育の華語中心化が進み始め、少数民族側の危機感が強まった。

習近平国家主席がふるう強権

したがって習近平時代の抑圧的な少数民族政策は、彼の就任前に萌芽があった。そして習近平は、党と国家の頂点に君臨して間もない2014年に起こったウルムチでの爆破事件を機に、今こそ「社会の安定」を実現しなければならないと考え、「中華民族共同体意識の鋳造」を目指す強権をふるっている。

習近平が掲げる国家目標「中国夢」は、この問題と表裏一体である。習は、中国のあらゆる個人の幸福と発展は、西側による抑圧の歴史を完全に打ち破り「富強」を実現した「中華民族の偉大な復興」を通じて実現されると説く。

そこで中国は、弾圧を「正当化」するために、生存権・発展権を軸とした独自の「人権」概念を強く打ち出す。中国のような途上国で生存権を保障し、豊かさの実現を最優先させるならば、「社会の安定」こそ重要であり、少数民族も含む個別多様な主張は、「安定」「発展」を阻害し「中国の人権」に反するという。

そして中国は、少数民族のすべてについて、外国や外来文化との関係ではなく、共産党の指導に従い中国国内で完結したものとする「中国化」を進めており、宗教教義の改変や風俗習慣の変更を強要している。

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