しかし、経済的な事情もあり、大学の学費や生活費は出してもらえなかった。そこで、前出の「新聞奨学生」で大学進学を目指すことになった。
「私立大学は経済的に無理だったので、受験は地元の国立大学の1校だけ。無事合格し、日本育英会(当時)の奨学金と、読売新聞の新聞奨学生制度の2つを使って進学することにしました。私の父は8人きょうだいで、ゆえに私にはいとこが多いのですが、その中でも大学まで進んだのは私を含め3人だけでしたね」
こうして、西村さんは海からほど近い場所にある、某国立大学に進学した。
「大学の授業料は年間で14万円ほどでした。当時、国立大学の授業料は相当安くて、経済的に恵まれない家庭の子どもでも、がんばれば大学に行けたんです。『優秀な人材を育てることが、日本経済の発展につながる』という考えが、社会に広く根付いていたように感じます。
ただ、私が進学した頃は、そういう空気感も変わっていくタイミングでした。私より少し上の世代は授業料がもっと安かったようで、留年している人も多かったのを覚えています」
西村さんが大学に通っていたのは、70年代後半から80年代頭にかけての頃だ。国立大学の授業料の推移は文部科学省が公表しており、西村さんの代の授業料は、正確には14万4000円だったようだ。ちなみに入学金は6万円である。
昔、国立大は授業料が安かった?
西村さんは当時の授業料を「相当安くて」と振り返るが、実際どうだったのか。もちろん当時と今ではお金の価値が違うので単純比較はできないが、それでも大卒初任給と比較することで、おおよその肌感覚がつかめるだろう。
厚生労働省が公表している「賃金構造基本統計調査」によると、西村さんが大学に入学した時の、大卒初任給(※1)は10万5500円。つまり、「大卒初任給(1カ月分)の1.36倍が、国立大学の年間の授業料」ということになる。
一方、最新の令和1年版調査では、大卒初任給は21万200円となっているので、もし、「大卒初任給の1.36倍が国立大学の年間の授業料」という比率が継続していれば、年間授業料は28.6万円ほどになる計算だ。
もちろん新卒初任給だけとの比較なので、この計算が絶対的に正しいと主張するつもりも毛頭ないが、国立大での年間50~60万円ほどの授業料がかかる現在と比較すると、当時の国立大授業料が、かなり低かったのは間違いない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら