日経平均は2万7000円前後まで戻る可能性がある ウクライナ危機で予想される「3つのシナリオ」

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【シナリオB:対立の激化 「消耗戦」=確率30%】望ましくないシナリオだが「消耗戦」が長期化することもありうる。この場合、西側諸国はさらに制裁を強化するが、ロシアの反応は限定的と考えられる。

欧州は穏やかな景気後退となり、生産活動は停滞。アメリカのGDP成長率も年率で2%近い水準まで減速へ。インフレ率は長期的に高止まりし、消費者心理を圧迫、消費とサービスの回復を遅らせそうだ。特にユーロ圏では、企業心理が弱く、投資に水を差しそうだ。

欧州中央銀行(ECB)は緩和策を意識しながら金融政策を継続すると予想。FRBは金融引き締めのペースを緩めるものの、今年中に数回の利上げを実施する。経済はスタグフレーション(景気後退の中での物価高)の方向へ。この場合、企業収益が減益となるため、世界株式は下落へ。アメリカの10年国債利回りは年末までに1.7%程度に落ち着く。相対的に優良株、資源・穀物などの商品が注目されそうだ。

【シナリオC:危機の深刻化 「NATO関与」=確率20%】

最後のCは最悪のシナリオ(確率20%)。紛争が拡大し、NATO(北大西洋条約機構)がより明確に紛争に関与する。西側諸国は全面的な貿易封鎖を行い、ロシアはエネルギー供給停止により、これに対抗する。

その結果、世界的な景気後退が起こり、ユーロ圏経済は縮小し、アメリカの成長率はわずかなプラスにとどまると予想する。欧州経済への打撃は、エネルギー供給の不足や配給制により工業生産が影響を受けるという2次的なものだけに収まらず、典型的な不況になる。

その結果、世界の主要企業は大減益となり、株式は大幅に下落する。アメリカの10年債利回りは0.8%まで低下。国債が買われ、相対的にディフェンシブ株、金などが注目される。

「NATOの明確な関与なし前提」で「買い局面」に

このように3つのシナリオで「ウクライナ危機」の株式市場への影響を見てきたが、目先の最大のリスクは、ロシアの石油とガスの供給が途絶えることによって引き起こされるインフレ率急伸だ。これは世界経済の勢いを著しく失わせ、景気後退につながる懸念がある。周知の通り、ユーロ圏はロシアからのエネルギー輸入に依存(ガス消費量の約4割はロシアから輸入)しているため、特に脆弱なのだ。

ただし、こうしたリスクが高まっても、地政学的ショックは短期間で終わる傾向がある。これは非常に重要なポイントだ。通常、軍事衝突などの危機が発生すると、1~2カ月の間に株式は大幅下落しても、解決策が見えてくるにつれて、強い上昇に転じてきた。

最悪の「シナリオC」以外であれば、「日経平均2万5000円割れは買い」のスタンスで望みたい。その際は短くとも4月中旬(最長6月中旬頃)までは強気のスタンスを維持しつつ、少なくとも2万7000円前後までのリバウンドを期待したい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

糸島 孝俊 株式ストラテジスト

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いとしま たかとし / Takatoshi Itoshima

ピクテ・ジャパン株式会社投資戦略部ストラテジスト。シンクタンクのアナリストを経て、日系大手運用会社やヘッジファンドなどのファンドマネジャーに従事。運用経験通算21年。最優秀ファンド賞3回・優秀ファンド賞2回の受賞歴を誇る日本株ファンドの運用経験を持つ。ピクテではストラテジストとして国内中心に主要国株式までカバー。日経CNBC「昼エクスプレス」は隔週月曜日、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、BSテレビ東京「日経ニュースプラス9」、ストックボイス、ラジオNIKKEIなどにも出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe)。

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