4月から「18歳成人」で変わるもの・変わらないもの 18歳、19歳は喪失する「未成年者取消権」の中身

拡大
縮小

筆者は学生から消費生活上のトラブルを聞くことがある。都内の格安を謳ったレンタカー会社から車を借りて返却したとき、ボディーに貸し出し時になかったキズが付いているとして10万円近い修理代を請求されたというケースがあった。

そんなキズは付けていないと言っても相手は引かないので、納得のいかない学生がその場で父親に電話で相談し、父親が相手に電話でクレームをいったところ、とたんに態度を変えて、「こちらの間違いかしれません。けっこうです」といって請求を引き下げたという。相手が弱いとみるとふっかけてくる事例だろう。

また、最近、トイレの詰まりなどの修理をめぐる料金トラブルが報じられているが、一人暮らしの学生から、トイレのトラブルで、ネットで格安料金を謳う業者に修繕を頼んだところ、20万円近い料金を請求され、ATMで現金を引き出して払ってしまったという相談も受けたことがある。

成人年齢が18歳に引き下げられると、20歳から増えていた相談件数が18歳からになるだけという予想もあるが、2歳若い18歳成人のトラブル件数の山は、さらに高くなると予想する専門家も多くいる。また、高校3年生といえば、大学受験をする年齢だ。

現実には、高校では大学進学を目指した授業に重きが置かれることが多い。そのために本来、経済生活の中で自らの権利を自覚し、適切な選択ができるようにするための消費者教育は大学進学のための受験勉強より重要なはずなのだが、そのようにはなっていない。若者の消費者教育は最重要課題だ。

18歳成人によって変わるもの・変わらないもの

政府も消費者契約法における消費者保護の強化や学習指導要領の改訂による学校での消費者教育の充実、政府広報による啓発等を行っているとしているが、不十分という意見も多く、また、親にも、高校の教師にも、そして当事者の若者にもその準備が十分であるようには思われないのだ。

『新版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』(慶應義塾大学出版会)書影をクリックするとAmazonのサイトへジャンプします

例えば成人式についても民法改正を受けて18歳で実施すると表明した自治体は少なく、多くの自治体は20歳を維持する見込みだ。何歳から成人とすべきかの国民的な議論が不十分であった証左のように思える。

なお、18歳成人は民法上の規定であり、それ以外の法律で定められた規定には注意が必要だ。例えば、たばこは「未成年者喫煙禁止法」、お酒は「未成年者飲酒禁止法」により20歳未満の者の喫煙・飲酒を禁じてきたが、18歳成人になっても年齢の引き下げはない(誤解を生じないように法律名も改められる)。以下に18歳成人によって変わるもの、変わらないものを示した。

18歳、19歳の若者を大人として社会に迎え入れるための責任はすでに大人になっている私たちにある。4月からの彼らの周りで起こるトラブルなどに社会全体で注目し、対応していくべきだ。

細川 幸一 日本女子大学教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ほそかわ こういち / Koichi Hosokawa

専門は消費者政策、企業の社会的責任(CSR)。一橋大学博士(法学)。内閣府消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。著書に『新版 大学生が知っておきたい 消費生活と法律』、『第2版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』(いずれも慶應義塾大学出版会)等がある。2021年に消費者保護活動の功績により内閣総理大臣表彰。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線をたしなむ。

 

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT