数十年後、タワマン住民を待ちうける驚きの未来 東京圏の外縁部にゴーストタウンが広がる

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牧野:タワマンは建物ですから、必然として老朽化と向き合わなければなりません。マンションは築15~20年で大規模修繕が発生しますが、タワマンは十数階建てマンションに比べて3~4倍の修繕費がかかります。

デベロッパーは通常、顧客に対して修繕積立金を月数千円から1万5000円程度と、安めに計上して提案します。割高感を抱かせないためで、不動産業界の常識です。この積立金は、築15年の最初の大規模修繕でほぼ使い切ってしまいます。すると修繕積立金が2万円くらいに上がるわけですが、タワマンの場合には管理費と合わせて5万円以上になることもあります。

この金額を払えない住民が増えれば、大規模修繕ができませんから、不動産価値が減じます。また長く住み続けることで収入が現役時代を下回り、手放さざるをえない住民も出てくるかもしれません。それによって空き家が増えれば、不動産価値はさらに低くなります。つまり、多額のランニングコストがかかり続けるのがタワマンであり、住民個々の所得に占める固定費の増大に耐えられるかが問われるのです。

河合:子世代が親と同居せず、新規の入居者も入らなくなって住み替えが進まなければ、タワマンが林立する街ごと捨てられることになるかもしれません。

牧野:ご指摘のとおり、問われているのは次世代に引き継がれる街になれるかどうかです。「プライド・オブ・プレイス(住んでいる場所が自分にとっての誇り)」が持てるように、街が成熟していけるか。

しかし私は、悲観的にならざるをえません。武蔵小杉のタワマンの開発担当者の1人とお会いしたことがあるのですが、とにかく「売る」ことが先決で、この街での世代交代の可能性など考えていなかったからです。彼に言わせれば、「それは行政が考えること」ということになりますが……。

街を捨てる人たち 

牧野:これまでの街づくりは都心にアクセスすることが前提であり、開発の基準は、通勤・通学に対する利便性にありました。家はただ寝に帰る場所、すなわち「ベッドタウン」でした。そこで暮らし、リタイアした高齢者の多くは現在、自宅に逼塞しています。街にはコミュニティーがなく、知人もいない。くつろげる場所も、生活の幅を広げるような刺激もない。耐用年数が来た家の中で、息を殺すようにして生活しているのです。

このままではベッドに寝たきりの老人ばかりの街、本物の「ベッドタウン」になってしまいます。そのような街に新しい人を呼び込めるか、若年層が住むかというと難しいでしょう。高齢者ばかりの街に、若い人たちは絶対に入ってきません。

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たとえば、JR立川駅前にタワマンが建ったとき、入居者の多くは立川郊外の一戸建て住宅を処分した人たちでした。駅から遠く、買物にも不便。そんな郊外を捨てて、同じ地域の便利なマンションに移ったわけです。今後、多くの住民が去った街がどんどん出てくるでしょう。 

河合:2030年代に入ると、東京23区を取り巻くように高齢化率40%程度の自治体がずらりと並びます。高齢者たちにすれば、会社員人生をかけて住宅ローンを払い、やっと手に入れたマイホームですから、愛着があって住み替えようとしません。このままでは、東京圏の外縁部にゴーストタウンが広がることとなります。

牧野:世代循環がなされない街をどうするか。これから生き残る街は、都心への利便性が高く通勤に便利──などではなく、街にどのような機能が実装されているかかが問われるのです。

(次回のテーマは、「老後はこうなる」です)

河合 雅司 作家、ジャーナリスト

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かわい まさし / Masashi Kawai

1963年名古屋市生まれ。中央大学卒業後、産経新聞社入社。同社論説委員などを歴任後、一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長。高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員、厚労省ほか政府の有識者会議委員も務める。「ファイザー医学記事賞」大賞ほか受賞多数。主な著書に『未来の年表』(講談社現代新書)、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)、『コロナ後を生きる逆転戦略』『世界100年カレンダー』。2021年6月に『未来のドリル』(講談社現代新書)を刊行。

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牧野 知弘 不動産事業プロデューサー

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まきの ともひろ / Tomohiro Makino

1959年生まれ。東京大学経済学部卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て三井不動産に勤務。J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て独立。現在はオラガ総研代表取締役としてホテルなどの不動産プロデュース業を展開。また全国渡り鳥生活倶楽部株式会社を設立。代表取締役を兼務。著書に『不動産の未来』『負動産地獄』『空き家問題』『2030年の東京』(河合雅司氏との共著)など。

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