ペスト、スペインかぜ、コレラの物語を今読む意味 コロナ文学が今すぐ書かれなくても問題ない訳

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このコロナ禍は後世どのような物語として伝えられるでしょうか(撮影:今井康一)
作家・高橋源一郎さんと文芸評論家・斎藤美奈子さん。“本読みのプロ”2人の対話を通じて、平成から令和まで約30年の間に刊行された「文学」から「社会」の姿が浮かび上がる。
2011年から2021年までに行った2人の対談をまとめた『この30年の小説、ぜんぶ 読んでしゃべって社会が見えた』を一部抜粋、再構成して3回連載で展開。
第3回となる今回は、“本読みのプロ”二人が、ペスト、コレラ、スペイン風邪を描いた小説作品をひも解きながら、コロナ禍の今だからこそ読んで楽しめる理由、今後コロナがどう小説に描かれていくのかを縦横に語り合います。
第1回:21歳で芥川賞「宇佐見りん」だから描ける独特世界(3月26日配信)
第2回:小説「ペスト」、感染症で人が狂う姿が今と似る訳(4月2日配信)

デフォー『ペストの記憶』は60年前の出来事を書いた

[第三回]

デフォー『ぺストの記憶』(1722/研究社他)
石井正己『感染症文学論序説 文豪たちはいかに書いたか』(2021/河出書房新社)

斎藤 美奈子(以下、斎藤):デフォーの『ぺストの記憶』(1722)もおもしろかった。

高橋 源一郎(以下、高橋):ものすごく迫真的な力があるんで、実体験かと思ったら──。

斎藤:当時の資料、医師による記録だとか論文、伯父さんが残していた日記なんかも参照して、1665年にロンドンで起こった疫病について書いたものです。

高橋:ロンドンのペストは、これが発表される60年前の出来事なんですよ。デフォーは当時5歳で、ロンドン郊外に避難していた。記録を残し、調べることがいかに大事かですよね。

斎藤:『ペスト』は医師が語り手だったけど、『ぺストの記憶』は商人が語り手だから市井の人びとの雰囲気が伝わってくる。

高橋:感染者数も最初はポツンポツンと増加するのが──。

斎藤:みるみる百から千単位になって。死亡週報で報じられる教区ごとの死者数を見て市民が一喜一憂してるのね。350年も前の出来事なのに、今と一緒だなって。

高橋:ロンドンの人口の約4分の1が亡くなってるんだよね。

斎藤:当時はまだウイルスや菌というものが認識されていなかったから、原因が全然わからないんだけど、基本やることは同じで隔離する。

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