ロシアへの「究極の制裁」で西側が浴びる「返り血」 金融制裁は戦争という「悪」を止められるのか

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とくに気になるのは、足元の対ロ金融制裁の効果だ。国際決済システムSWIFTからロシアを遮断する可能性は、以前から”Nuclear Option”(核オプション=究極の手段)と呼ばれてきた。

これを実施すれば、ロシアはドル建て取引ができなくなる。そのことにより、ロシアの貿易はかなりの部分が止まるだろう。それによって人民元取引が増えるのではないか、中国のCIPSなどほかの決済インフラの使用を促すのではないか、基軸通貨としてのドルの地位が低下するのでは、といった中長期の話はここでは捨象しよう。だって有事なんだから。

対ロ制裁の中の「中央銀行も対象となる」という決定にはいささか驚いた。ロシア中央銀行は6400億ドルの外貨準備を有している。しかるに、その全額がモスクワの金庫の中に眠っているわけではない。

例えば6%程度を占めるロシア保有の円資産は、日本銀行が預かっている。今回の措置に伴い、この円資金は凍結されることになる。同様に32%のユーロや16%のドル、7%の英ポンドも使えなくなるだろう。

となれば、ロシア中央銀行が自由にできるのは、金(22%)と人民元(13%)くらいということになる。これではルーブルが暴落しても、為替介入はほとんどできないことになってしまう。

「1998年の悪夢の再来」はあるのか

筆者の限られた体験からいっても、10年くらい前のロシアは1ルーブル=3~4円で、それだとモスクワの街角は普通の物価感覚であった。それが2014年のクリミア併合以降は、西側の経済制裁を受けて1ルーブル=2円程度に低下し、一流ホテルでも1泊1万円程度と円の値打ちが上昇した。それが現在は1ルーブル=1円前後である。だからといって、今のモスクワに行きたいとは思わないけれども。

3月3日には、格付け機関ムーディーズがロシア国債を投資適格とされる「Baa3(トリプルBマイナス)」から投機的水準にあたる「B3(シングルBマイナス)」へ一気に6段階引き下げた。経済制裁によって債務返済リスクが高まったとして、3月16日に予定されている1億1700万ドルの利息支払いを警戒しているとのことである。

ロシア国債といえば、1998年にデフォルトしたことを思い出す。それがきっかけで、ヘッジファンド大手のLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)が経営破綻した。

あのときは国際金融危機の一歩手前まで行ったものだ。国債にとどまらず、株などのロシア関連資産も暴落しているから、今後は「ババ抜きゲーム」が始まるかもしれない。とりあえず、「知らないうちに買っていた仕組み債にロシア国債が入っていて……」なんてことがないか、資産家の方々はチェックされたほうがよろしかろう。

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