20代で故人と向き合う仕事選んだ彼女のやりがい エステ勤務、中国留学など経てエンバーマーに

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こうして引き出しが増えることによって、安西さんのエンバーミング処置の方法も大きく変わった。エンバーマーになりたての頃は、顔を洗い、ヒゲを剃り、薬液を注入し、その効果を確認し、写真を見て化粧をし、生前の姿に近づける、という手順を順番どおりに行っていたものが、次のように変わったのだという。

「処置時間はだいたい3時間くらいかかります。故人様にお会いしてから処置方法を組み立てるのですが、お会いしてから5~10分くらいで3時間後のお姿まで想像できるようになりました。その最終形に持っていくために処置をするようになりました」

こうして、安西さんはプロになった実感を持てるようになったそうだ。

つらい経験も

だが、そこにくるまでに順風満帆だったわけではない。つらい経験もしている。今でも忘れられないのは、エンバーマーになって3年目に、事故で亡くなった10代後半の女性を担当したときのことだ。

「顔面を複雑骨折されていました。お顔を見ながらのお別れにしたいというのがご遺族のご希望でしたので、12時間かけて精いっぱい行いました。でも、痛々しくないお姿にするのが精いっぱいで、お写真があっても、生前のお姿に近づけることはできませんでした。そのため、ご家族の第一声は、『娘じゃない』でした」

それから3日後には、「精いっぱいやってくれました。ありがとう」と言ってもらえたそうだが、安西さんは、より生前に近づけることができなかったことがすごく悔しかったという。そして、その後は、「後悔しないために、どうしたらもっとよく処置できるのかをすごく考えながら、1件1件を大事に処置するようになりました」と話す。

故人らしい生前の姿に近づけるために、安西さんは、技術面だけでなく、遺族に納得、満足してもらえるようにすることにも力を入れ、グリーフケアについて学んでいる。

グリーフケアとは、悲嘆にくれる人を立ち直れるように支援することだが、公益社では、エンバーミングもグリーフケアの1つとして位置づけている。エンバーミングという技術によって生前の姿に近づけることにより、遺族が大切に思っている故人の尊厳を守る。

さらに、その姿が、遺された人たちの最後の対面やお別れの場において癒やしを与え、生涯にわたって残る故人の印象を、穏やかなものとすることにより、故人にできるだけのことをしてお別れすることができたという満足感がその後の遺族や関係者の悲しみをケアするという位置づけだ。

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