20代で故人と向き合う仕事選んだ彼女のやりがい エステ勤務、中国留学など経てエンバーマーに

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安西さんは29歳のときに、公益社が運営しているIFSA認定のエンバーマー養成校「フューネラルサイエンスカレッジ 」(現在は募集を行っていない)に入学して2年間在学。IFSAの資格試験に合格して、公益社に入社。2010年31歳のときにエンバーマーとなった。

エンバーマーになるまでの道のりについて、安西さんは「紆余曲折はありましたが、自分が本当にやりたいと思うことが見つかりました。やりたいことにたどりつくまでに時間がかかりましたが、エンバーマーになれたときは、自分の天職だと思いました。どんなことがあってもプライドを持って、あきらめずに頑張っていこうと決意しました」と振り返る。

プロとして大切にしていること

安西さんがエンバーマーになってから11年が過ぎた。エンバーマーのプロとして、いちばん重視していることとは何だろうか。

「エンバーミングは、故人様を生前のお姿に近づける技術ですが、そのお姿にご遺族が納得し、満足していただくことが必要です。エンバーミングによって、どんなにきれいなお姿になったとしても、ご遺族が『おじいちゃんのイメージとは違う』と感じるようでは何の意味もありません。ですから、故人らしい生前のお姿に近づけることと同時に、ご遺族に納得、満足してもらうことを最も重視しています」

その理由について、「例えば、ご遺族の頭の中にあるエンバーミング後の故人様のお姿と、預けてこられるお写真(公益社では、葬祭ディレクターが遺族からヒアリングして作成した依頼書と、故人の生前の写真などを預かってエンバーミング処置を施す)が違うことがあります。

ご遺族の頭の中にあるのは自然な姿なのに、きれいなお写真が比較的多いのです。そのお写真のとおりにしようと、例えば、若いときは、シミやホクロなどを何とか隠そうとする人が多いのですが、そうすると、ご遺族から『おじいちゃんじゃない』と言われてしまったりするのです」と言う。

では、故人らしい生前の姿に近づけるために、安西さんはどのような努力をしてきたのだろうか。まず、技術面について聞いた。

安西さんは、「技術的には、引き出しをたくさん持つことが最も重要です」としたうえで、その理由についてこう語る。

「故人様のご遺体の状態は十人十色です。ご遺族のご要望も同様です。ですから、さまざまな状態やご要望を踏まえて生前のお姿に近づけるには、引き出しがたくさんあることが必要です。引き出しがたくさんあれば、この方法でうまくいかなければ、こちらの方法でやってみようということもできます」

引き出しをたくさん持つためには、エンバーミングを数多く経験すること、また、自然死だけでなく、事故や自死などの突然死などさまざまなケースを経験することが必要だという。そのために安西さんは、教えられてきた方法を行うだけでなく、よりよい方法を模索しながら目の前の故人に最善の処置を心がけてきた。

次ページ処置時間は3時間
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