「ジェンダーの壁」日テレ記者が語る実体験と課題 小西美穂キャスターはどう克服しようとしたか

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2つ目は、新設されたDX取材部が「ジェンダー」をテーマに掲げたことである。ジェンダー問題は、放送ではなかなか大きく扱われなかった。しかしネットでは、LGBTQや多様性への課題も含め、若い世代を中心に高い関心を集める。

夏の東京五輪でも、デジタルでオリジナル記事を出稿し、書き手は男性記者にも広がった。これら2つの動きを加速させ、社員・スタッフの価値観のアップデートとともに、職場の環境改善へとつなげていこうとしている。

最後に、現場に求めたい改善点を記したい。それは、報道のリーダー層には、女性に不利に働く「無意識のバイアス」に注意を払ってほしいということである。

例えば、特番で長期出張取材を部下にさせるとする。部下には男性と女性がいる。能力は同じ、いずれも結婚していて幼い子どもがいる。「どちらを行かせる?」となった場合、「女性には子どもがいるし、ご主人も反対して当然断られるだろう」と、“よかれと思って”男性を派遣することはないだろうか。

実際に女性本人に聞いてみると、「家庭のことはなんとかするから、ぜひ行かせてほしい」となるかもしれない。そこで成果をあげれば、特番は成功し、女性のキャリアにも確実にプラスになる。男女の性別役割への固定観念から「きっとこう判断するに違いない」という無意識のバイアスが働き、女性に聞きもしないで、重要な仕事を差配することはないだろうか。

無意識のバイアスに自覚的になるべき

女性が産休・育休明けにキャリアのコースから外される、いわゆる「マミートラック」がある。決定権のあるリーダー層は「無意識のバイアス」に自覚的になり、男性に与えたタフな機会を、平等に女性にも提案し、選択肢を与えてほしい。

報道現場の女性が直面する壁は、女性の手には負えないものであり、女性に責任があるわけではない。周囲全体が協力して取り払っていく必要がある。そして、これは女性だけの問題ではない。男性でも「男なんだから」と問答無用でハードな仕事が振られたり、育休が取りにくかったりして、つらい思いをしている人もいる。

報道の仕事は面白い。飽きない。多様な立場の人が働き続けられ、自分のライフプランを描きながら安心してキャリアを積める環境を整備する必要がある。

小西 美穂 日本テレビ 報道局DX取材部 解説委員・キャスター

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こにし みほ / Miho Konishi

1992年読売テレビ入社。警察・司法記者を経てロンドン特派員。帰国後、政治部記者。2006年日本テレビ入社。報道キャスターに。討論番組の司会を数多く務め、2013年から「深層NEWS」(BS日テレ)メインキャスター、2017年からは「news every.」出演。早稲田大学大学院政治学研究科修了。研究テーマは「ジェンダーと政治」。

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