21世紀の国際政治を形作るパワーは何か--ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ
世界政府が21世紀に誕生する可能性は薄い。しかし、すでにさまざまな形でグローバルなガバナンスは存在している。世界には、通信や民間航空、海洋投棄、貿易、核兵器の拡散を規制する、何百もの条約や制度、体制がある。
だが、そうした制度だけでは十分ではなく、大国の指導力が必要となる。ただし、今世紀中に大国がそうした役割を担うかどうかは不透明だ。中国とインドの力は増大しているが、両国の行動は変わるのだろうか。21世紀中葉に、米国、中国、インドの三極世界が形成すると予想されているが、皮肉にもこの3カ国は自国の主権維持に最も熱心だ。
以前、ロバート・ゼーリック世界銀行総裁は、中国は“責任あるステークホールダー”になると主張した。一方で、力が強まるにつれて、自分の考えを押し付け、独自の国際制度を作るのではないかという声も上がっている。
欧州連合は国家主権を制限する実験に取り組んでおり、制度改革を推し進めるかもしれない。ただし、世界が1945年の国際連合創設と同じような“世界憲法制定の好機”に恵まれるとは思えない。現在、国連は世界機関として法律の制定、危機外交、平和維持、人道的使命を果たすうえで極めて重要な役割を果たしているが、それ以外の役割を果たすには規模が小さすぎる。
2009年に開かれたコペンハーゲンでの国連気候変動首脳会議のように192カ国もの首脳が集まる会議で、具体的な解決策に合意するのは難しい。最近、クリントン米国務長官は、「国連は依然として最も重要な国際機関であるが、いつもその限界を思い知らされる。国連はすべての問題に取り組むために設立されたわけではないし、
そうであってはならない」と語っている。