デュポン会長兼最高経営責任者 エレン・クルマン--世界人口の大幅増が商機 食糧やエネルギーに活路
あのラボワジェの弟子でフランスからの移民だったイー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール。化学の知識を生かし1802年に火薬製造会社を設立した。それから2世紀、デュポンはセロハンやナイロンの開発など、米産業史を塗り替える先進的な製品を生み出し、今も世界75以上の開発拠点で8500人超の研究者を抱える、イノベーション(技術革新)企業であり続ける。
これまで、幾度となく襲った時代の荒波を、大胆な事業再構築で乗り越えてきた。金融危機に見舞われた昨年も、23あった事業部を農業・食糧、化学品、素材、コーティング(塗膜)など13に再編。成長分野に経営資源を集中させたのが、エレン・クルマン会長兼最高経営責任者だ。米『フォーチュン』誌の「ビジネス界で最もパワフルな50人の女性」にも6年連続で選ばれた、敏腕経営者。3世紀目に入った、米大手総合化学メーカーのさらなる「進化」が託されている。
--トップへの就任時期がリーマンショック直後。あの厳しい事業環境の中で、経営者として何を考え、どのように実践されましたか。
危機対応を第一に、基本に立ち返って行動した。まず自分たちでコントロールできるコストのうち、一般的な経費や設備投資を抑制。一方で研究開発費は、危機前の水準を継続することが重要と考えた。それは、イノベーションを提供し続けなければ、景気が回復した暁に競争力を持って対応できないからだ。
社員に対しては、どういう景気状況になるかわからないので、とにもかくにもコミュニケーションを重視し、不安を払拭した。社員には「顧客との時間、仕事に費やす時間を増やしてほしい」と、粘り強く呼びかけた。
--昨年、23事業部を13事業部に大再編された狙いは。
金融危機のさなか、会社自体がかなり複雑になっていて、投資家に対しても透明性が損なわれてきていると気づいた。そこで、市場や技術ごとに統合し、成長分野に焦点を当てて業務が行えるようにした。結果として、それぞれの事業が「明確に何を目指すのか」「競合他社はどこなのか」「経営資源をどう配分すべきか」といった、目的意識や問題把握が明らかになった。