日本人でも欧米人が好む「日本料理」を日本で食べたいとは思わない。カリフォルニアロールは日本でそれなりに定着したが、それでも寿司屋の看板メニューにはならない。いくら食べてもやはり味になじみにくいところが残ってしまう。人間の味覚とは基本、保守的なものだ。どんな料理でも、現地の人々の嗜好に合わせた「現地化」が不可欠になる。
王将の料理は、いわば「日本の中華」の集大成のようなもので、日本の中華料理店で出されている人気メニューである餃子やチャーハン、レバニラ炒め、野菜炒めなどを、ファストフード的に気軽に食べられるようにしたサービスにこそ、日本市場で成功した理由があった。
日本人と中国人では異なる“餃子感”
しかし、日本に来ている中国人の多くが感じているように、「日本の中華」は中国人の味覚に合わない。味が濃すぎる。調理法が極端に「炒(いためる)」中心で「蒸(むす)」「烤(やく)」「燉(にこむ)」「炸(あげる)」などのバラエティに乏しいから、メニューが少ない。
餃子について言えば、日本の餃子は皮が薄いのでおなかがいっぱいにならない、という感想が目立つ。それもそのはず、中国で餃子は主食として食べるので、皮がとにかく分厚くてしこしこしている。日本では、餃子の皮はあくまでも中の具を食べるためのサポート役だが、中国では逆で、餃子の中の具は、皮を美味しく食べるためのサポート役という位置づけなのである。
だから中国では日本のように「餃子ライス」という頼み方は基本的にあり得ず、中国で日本の餃子を売るというモデル自体が成立しにくい。ただ、大連にある王将に訪れたことのある人によると、メニューは餃子単品というより、チャーハンや唐揚げとセットになっており、日本式餃子だけでは中国人の胃袋を満足させられないことには気付いていたようだ。
また、進出先に選んだ大連という場所が悪かったという説もある。大連は餃子の本場、餃子発祥の地とも言われている。日本で中国人が開いた中華料理店で「大連餃子館」などと名乗っているところも多い。そんな餃子の“本場中の本場”に挑むのは、その意気込みは伝わるが、ビジネス戦略としてはやや冷静さを欠いていたかもしれない。
たとえば、餃子文化がそれほど濃厚ではなく、日本的な味にも慣れている台湾や香港で肩ならしをしてから進出したほうがよかったのではないだろうか。台湾や香港には王将は出店していないようだが、台湾の飲食業の知人からは「まずは台湾で中華圏の味覚や商習慣に慣れてから、パートナーとして中国人向け商売に慣れている台湾企業と組んで進出したほうがよかったのではないか」という話も聞かれた。
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