日中韓を振り回す「ナショナリズム」の正体

第1回 熱くなる前に、身近なことから考えよう

保阪正康 ノンフィクション作家
昭和14年(1939)、札幌市生まれ。同志社大学文学部卒業後、出版社勤務を経て、ノンフィクション作家。昭和史の実証的研究を志し、のべ4000人もの関係者たちを取材して肉声を記録してきた。個人誌「昭和史講座」を主宰。2004年、一連の昭和史研究で菊池寛賞を受賞。『昭和陸軍の研究』『東條英機と天皇の時代』『昭和史 七つの謎』『あの戦争は何だったのか』『風来記』など著書多数。半藤一利との共著(対談)に『そして、メディアは日本を戦争に導いた』などがある。 (撮影:梅谷 秀司)

では、この甲種合格の人がみんな兵隊になるのかというと、そういうことではありません。日本の軍隊は、松本連隊とか高崎連隊とか宇都宮連隊とか、地域ごとの連隊になって、それが郷土連隊と言われるんです。もちろん第二六連隊とか第五連隊とか名前が付いていますけど、みんな、地域名が連隊の名前にもかぶさります。地域の青年たちがグループになって召集されて、連隊をつくるんですね。

で、9万人の日本中の甲種合格の兵隊が全部、連隊に行ったら大変なことです。そんなに定員がありません。軍はそんなに新兵を受け入れることはできない。ということで、9万人のうちで、兵舎に行って、2年間の訓練を受ける人は限られているわけですね。

そうした中で、みんな、昭和12年7月の盧溝橋事件まではどうだったか。

地元の神社で、息子が甲種合格になったけど、どうか兵営に入隊しないように、と祈るんです。兵営に入らなくても、年に何回かは訓練を受けるというようなことはありましたけれどね。とにかく兵営に行かないようにと願うわけです。労働力が不足するということにもなりますからね。それが当たり前だったんです。堂々と神社で、みんな、祈願してたんです。

戦争に行かないように、兵舎に行かないようにと願うことは、恥ずかしいことでも何でもなかった。つまり、みんな兵舎に行って、訓練を受けたくなかったということですね。それが社会で、当たり前に通用していたのです。

国家による民衆ナショナリズムの抑圧

それが盧溝橋事件以後、軍部は、大本営は、兵隊を次々と中国戦線に送ってしまう。その規模は数十万人とかになります。

そうすると、甲種合格は全部、兵隊にしなくてはいけない。兵舎に入れて、3カ月ぐらいで行進と鉄砲の打ち方を教えて、それから行軍を教えて、戦地に送り込みます。それが日中戦争の現実だったんですね。

そして送り込む兵隊の数ですが、日本の太平洋戦争の最後、昭和20(1945)年なんか、数百万人の兵隊が軍にいましたから。それは甲種だけではない。乙種・丙種も。それでも足りないと言って、年齢幅をグッと上げていくわけですね。

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