《プロに聞く!人事労務Q&A》年次有給休暇の買い取りに応じるべきですか?
回答者:半沢社会保険労務士事務所 半沢公一
会社が「買い取りはできない」と回答すると、「それでは未消化分の60日間はこちらの会社に籍を置いたまま、転職先の会社に勤務する」と言います。要するに、60日間は弊社に籍だけを置き、給料を受け取りつつ、新しい会社で勤務するというのです。これでは同時に2社に所属することになり、当社として承認できるものではありませんし、このようなことは聞いたことがありません。どのように対応すべきでしょうか?(サービス業 人事)
年次有給休暇は、労働者にとって希望する日に取得できる権利(時季指定権)があり、これに対して、会社には、事業の正常な運営を妨げる場合において、他の時季に変更させることができる権利(時季変更権)があります(労働基準法第39条第4項)。また、年次有給休暇は、その性格上、退職後は権利を行使できないことになりますから、社員からすると在職中に取得しなければならないことになります。
今回のケースでは、社員が退職日を指定したうえで、その日までに残余の年次有給休暇の全日数を取得することができないので、買い取りの要求をしてきたということであり、その理由は、転職先への入社日が決まっているので、二重就労を避けるため、ということですね。
年次有給休暇の取得日を見込んで退職日を指定することは、労働契約上の信義誠実の原則に違反することも考えられますが、違法であるので認められないとする判断までは難しいでしょう。また、退職の場合には、前述しました「時季変更権」は、社員が指定した日について、変更できる候補の日が存在しないので行使することができません(退職日を労使で協議のうえ、後の日に変更する場合は可能ですが、今回のケースでは社員が望んでいないので困難です)。会社側としても、二重就労という事態になることは好ましくないので避けたいところです。
次に、年次有給休暇の買い上げについてですが、法定部分の年次有給休暇の買い上げは、法令で禁止されています。その理由は、「年次有給休暇は、所定労働日の労働義務が消滅するものであり、所定労働日に休業しない場合に賃金を支給することでは休暇を与えたことにはならない」ということです。