《プロに聞く!人事労務Q&A》年次有給休暇の買い取りに応じるべきですか?

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これについて、「年次有給休暇の買い上げの予約をし、これに基づいて労働基準法の規定により請求できる年次有給休暇日数を減らしたり、請求された日数を与えないことは、違反である」という通達(1955.11.30基収4718号)もあります。

これとは別に、法定を超えて与えられている年次有給休暇日数部分については、買い上げをしても法令違反にはなりません(1948.3.31基発513号他)。また、社員が年次有給休暇の取得権を行使しないで、退職等の理由でこの権利が消滅する場合に、残日数に応じて調整的に賃金を支給することは、事前の買い上げと異なりますので、法令に違反するものではありません。

さて、今回のケースで社員が買い取りを要求した日数は60日分ということですが、当該日数から判断しますと、社員が所持している年次有給休暇は、法定部分と法定を超えて任意で付与している日数を合算したものではないかと推察します。

前述のとおり、退職時における法定部分の年次有給休暇の買い取りは、原則として法令違反にはならないということですから、法定を超えて付与している年次有給休暇部分についても、就業規則等に特段の取り決めがないかぎりにおいては、退職時において買い取りが可能であると解釈して差し支えないでしょう。

よって、今回のケースにおける会社の対応としては、60日分の有給休暇を買い上げて、社員が指定した日を退職日とすることの措置が適当ではないかと考えます。

もちろん、いったんは会社から「買い取りはできない」と回答しているわけですから、それを撤回することは難儀かも知れません。しかし、紛争の原因を残したまま雇用契約を終了することは会社としてリスクを抱えることになりますから、仕切り直しをしてもう一度協議をし、円満退職の手続きを検討してみてはいかがでしょうか。

なお、今後のことを考えますと、同じようなケースで労使双方に疑義が起きないように、退職時における年次有給休暇の取り扱い(買い上げに関することも含めて)について、就業規則に明記しておくことをお勧めします。

半沢公一(はんざわ・こういち)
1980年東洋大学経済学部卒業。IT関連会社で営業、人事労務及び派遣実務に従事した後、91年に独立し半沢社会保険労務士事務所を開設。就業規則をベースとした労務相談を得意とする。企業や団体での講演・講義も多い。現在、東京労働局紛争調整委員会あっせん委員、東京都社会保険労務士会理事等を務めている。著書多数。


(東洋経済HRオンライン編集部)

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