(第34回)新段階の海外移転 積極的対応が必要

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 この10年間海外移転が目立って進まなかったのは、円安が続いて国内の生産が伸びたからだ。それに伴って国内の設備投資も伸びた。しかし、経済危機後の円高によって、状況が大きく変わったのである。

政治的配慮でなく経済的必然性で海外移転

90年代頃までの海外移転は、貿易摩擦対策としての先進国立地が多かった。81年からの自動車対米輸出自主規制を反映して、ホンダが82年にオハイオ州で大規模な現地生産を開始した。その後、日産やトヨタがアメリカ、イギリスなどで現地生産を開始した。

これは、生産コスト削減を目的にした移転というよりは、政治的な配慮が強い移転だった。したがって、現地法人の地域別比率を見ると、97年には北米が23・7%、ヨーロッパが18%を占めており、中国10・6%に比べてかなり高い比率だった。

しかし、その後、先進国のウエイトが低下して、新興国のウエイトが上昇した。08年における現地法人数の地域別比率は、北米が16・2%、ヨーロッパが14・2%に低下し、その半面で、中国が29・1%、ASEAN(東南アジア諸国連合)が16・4%に上昇している。

これは、アジア工業国の低賃金労働力を活用して生産コストを引き下げることを目的とする移転だ。その意味で、経済原則に従ったものである。ここに来て海外移転のスピードが高まったのは、為替レートが円高になったため、コスト削減の必要性が高まったからだ。

今後進展する海外移転も、この延長線上にある。その基盤には、日本とアジア新興国との賃金格差がある。したがって、引き止めようとしても不可能だ。日本国内の高賃金を前提とすると、日本で生産して輸出することが経済的に成り立たなくなってしまったのだ。前記のシャープ片山社長の言葉がそれを明確に示している。とくに、主要な輸出先がこれまでの先進国からアジアに転換すれば、低価格製品が多くなるので、そうならざるをえない。製造業派遣の禁止や温暖化ガスの削減といった国内のコスト増加要因も影響しないわけではないが、仮にこの要素がなかったとしても移転は進む。また、法人税も関係がない(日本の税制は全世界源泉の所得に課税し、外国での納税額を控除する仕組みなので、税率の低い国に工場を移しても、法人税の負担は変わらない)。

製造業空洞化は不可避 高付加価値サービス業を

日本の海外生産比率は、アメリカ、ドイツなどに比べるとまだ低い。だから、今後上昇する可能性が強い。

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