江戸時代に今をはるかにしのぐ猫ブームがあった 猫が描かれた「浮世絵」が次々と世に出ていた

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なかには、「そんなことをして、何か人の役にでも立つの?」と少し皮肉っぽくいう人もいました。ノラねこは、シカやクマ、キツネといった野生動物ではありませんし、かといって牛や豚、羊などの典型的な家畜とも少し違います。どちらにも属さない、中途半端な動物と思われてしまえばそれまでで、ノラねこの研究が一般の人から受け入れられなくても、それは仕方がないことと諦めておりました。

しかし、この10年ほどの間に、少しずつ潮の流れが変わってきたように思います。わたしのノラねこの研究内容や、その成果について、新聞社やテレビ局、出版社などからの問い合わせが次第に増えてきました。また、ノラねこを研究することに対しても、「あら、楽しそう!」とか「わたしもやってみたい!」などと、反応も随分と好意的なものへと変わってきています。これも、最近のねこブームのおかげなのでしょう。

江戸時代にも現在のような「ねこブーム」があった?

しかし、社会現象にまでなっている現在のねこブームは、何もいまに始まったことではないようです。少なくとも江戸時代には、今をはるかに凌ぐような、「大きなねこブーム」があったようです。

かつては貴族や高貴な人たちの愛玩動物であったねこは、時代が進むにつれてネズミを退治してくれる有益な動物として、次第に庶民にも広まりました。そして、江戸時代になると、浮世絵のなかの風景の1つとして、ねこが描かれるようになります。

このことから、この頃にはすでに庶民の生活のなかに、ねこは普通に溶け込んでいたことがわかります。江戸時代も後期に入ると、それまで風景の1つであったねこが、浮世絵の主役に躍り出ます。とくに歌川国芳などは、まさに「ねこづくし」ともいえるような浮世絵を、いくつも世に出しています。

例えば、東海道五十三次の各宿場名を、描かれたねこのしぐさで語呂合わせした『猫飼好五十三疋』をはじめ、ねこに着物を着せて擬人化し、さまざまなポーズをとらせてみたり、ねこの体を使って「なまず」や「かつを(お)」「た古(こ)」などの文字をつくってみたりと、自由な発想と遊び心があふれる浮世絵を発表しています。

江戸・明治の猫の浮世絵200点(於七尾美術館)(写真提供:朝日新聞社)

このような面白すぎるねこの浮世絵を次々と世に出すことができたのは、もちろん作者である国芳自身が無類のねこ好きだったことにもよりますが、何よりも、たくさんの江戸の庶民たちが、これらのねこの浮世絵を喜んで買ったからです。いつの時代も、売れないものはつくられません。このことからも、当時の人々は、現在のわたしたちが想像する以上にねこ好きで、ねこブームの真っただ中にいたことがうかがい知れます。

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