性的少数者は韓国社会で20年間どう戦ってきたか ネットの影響から韓国軍兵士をめぐる訴訟まで

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韓国はプロテスタント信者が人口の19%を占め、世界の10大メガチャーチ(1週間の礼拝者が2000人以上の大型教会)のうち韓国の教会が4つあるほどプロテスタントの影響力は強い。

韓国の保守的キリスト教勢力は、単純に宗教的な教理を理由として性的少数者に反対しているのではない。韓国では1990年代末から世襲の問題や横領、牧師の不道徳な行動といったプロテスタント宗教界の実状が明らかになり、社会的信頼が地に落ちていた。自分たちがその醜悪と過ちを隠そうとすれば、人々の視線を他の場所に移させる必要がある。そのスケープゴートとなったのが、まさに性的少数者だったのだ。

さらに深刻な問題は、このようなメガチャーチを主軸とする保守的なプロテスタントの勢力が政界に大きな影響を行使しているということだ。例えば、牧師が区役所を訪れ「私の要求を聞き入れなければ、次の選挙であなたに投票しない。教会の信者にもそう伝える」と強い圧力をかける。

このような圧力を受けた政治家は、保守的なプロテスタントの力に無力となってしまう。性的少数者に対する嫌悪と差別が強まり、政府も性的少数者の人権問題に消極的な動きを見せるようになった。このような政治と宗教の"合流"は性的少数者に対する嫌悪と差別を助長し、性的少数者の人権だけでなく韓国の人権全般をも後退させている。

性的少数者の人権拡大はすべての人権を増進する

このような息苦しい現実においても、韓国の性的少数者のコミュニティと韓国の人権運動が成し遂げた重要な成果がある。それは韓国における人権問題を議論すれば保守的なプロテスタントの反対にぶつかるようになったため、性的少数者の人権が韓国のすべての人権問題と連結されているのだと多くの国民が理解するようになったことだ。

こうなると、性的少数者の人権拡大への努力が、すべての人権を増進するための道であることを自ずと理解するようになった。このような意味において、意思をともにする多くの人たちが集まり、性的少数者の人権だけでなく移住者や難民、女性、障害者などの韓国における多様な社会問題にともに連帯するようになった。これは、嫌悪と差別という苦しい経験を受けたことで得られた貴重な資産となった。

韓国で最大の女性団体の1つは「われわれはつながればつながるほど強くなる」というスローガンを打ち出し、ソウルクィアカルチャー・フェスティバルの舞台に立った。また、プロテスタントの同性愛嫌悪を恥ずべきことだとし、こういった嫌悪と差別に立ち向かおうとする宗教家の集まりもつくられた。自分の子どもたちが差別を受ける様子をみた保護者たちは、熱血の人権活動家となり「性的少数者父母会」も作られた。

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