英国「コロナ制限解除下」で生じた新たな医療問題 ブースター接種は「ロシアンルーレット方式」

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患者が手術予定の病院ではなく、自分の最寄り病院でPCR検査を受ける場合は、さらに混乱をきたす。

これも同様に3日前に検査を受けてもらい、検査先の病院から手術先の病院に連絡がいく仕組みなのだが、やはり検査結果の通知が間に合わない。検査結果が手術日の朝、患者が手術予定の病院に到着しても、まだ結果が出ていなことさえある。

このため、手術当日の順番変更や中止も日常茶飯事で、手術室や外科室ともに担当者は小型無線で刻一刻と変更する状況をやり取りする状態だ。

また、「PCR検査で陽性結果が出たら、その後90日は検査不要(手術前のPCR検査も同様)。陽性判定から10日間は自主隔離をして、症状がなければ検査不要で通常生活に戻れる」が当初の国のルールで、現在では自主隔離期間は最短5日間に短縮されている。ただし、今でも多くの病院では10日の自主隔離を患者にお願いしている。

ルールを知らない患者が病院を混乱させる

ところが、このルールを知らない患者が陽性判定後90日以内に再度PCR検査を受けて、問題を複雑化してしまうのだ。わかりやく日付を入れて例を挙げてみよう。

<コロナ症状があったため、1月1日に近所の検査センターでPCR検査を受け、陽性。10日後と15日後に自宅で簡易検査をしたところ、両方とも陰性だった。1月17日に手術前のPCR検査を受けたら、再び陽性に。1月20日に手術を予定通りに受けることはできるのか――>

もし、この患者が1月17日に2度目のPCR検査を受けていなければ、1月20日に手術できた。最初のPCR検査による陽性判定から10日以上が経ち、症状はないため、自動的に陰性扱いになるからだ。

しかし、このケースでは陽性後15日に簡易検査を、17日にPCR検査を受け、バラバラの判定となってしまった。これでは「陽性判定の日」は1度目のPCR検査の日(1月1日)か2度目(1月17日)になるのか、はっきりしない。ただ、簡易検査であっても一度は陰性となった以上、2度目のPCR検査を「陽性判定初日」と判定せざるを得ず、手術は延期となってしまう。

延期は患者にはもちろん気の毒だが、院内は大変だ。手術のスケジュールに空白は許されず、大至急キャンセル待ちの患者に連絡を取り、空白枠を埋めていく。もちろん、PCR検査の手配から始まり、同じプロセスを踏まなければならない。とりわけ外科の事務室はこうした手配を限られた時間のなかで行う必要があり、相当なストレスのなかで業務を行っている。

このように、現在のイギリスの多くの病院が抱えるコロナ問題は患者の重症化ではなく、PCR検査の陽性と陰性で各部署を巻き込んでタッフが振り回されることや、不要に手術が延期をされることだ。どんなに各部署が努力を重ねてもPCRの結果で手術のキャンセルと空き枠は避けられない。

かたや、イギリスの待機手術は過去にないほど長い待ち期間となり、肩や膝など不急の手術では待ち期間の改善が課題になっている。

そして、2月9日、イギリスでは新たな規制緩和の考えが発表された。「近い将来、陽性者の自主隔離や、ソーシャルディスタンスも含めたさらなる感染対策の解除」が検討されるという。多少の不安と疑問も残るが、患者のPCR検査の結果に振り回される病院内の現状が改善される可能性を思うと、病院職員としては希望も感じる。

今後も感染対策の緩和には注視をしていきたい。

ピネガー 由紀 イギリス正看護師、フリーランス医療通訳

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Yuki Pineger

日本での看護師免許や勉強経験はなくイギリス義務教育(GCSE)、高等教育A-levelを経てマンチェスター大学看護学部卒業。現在は、イギリス中部に在住してNHSの大学病院に勤務。通常は外科部門に所属して手術前後の患者看護に当たる傍ら、学生指導も担当している(2020年4月から新型コロナ感染病棟に期間未定で異動中)。

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