これには前述したAdBLueの二重噴霧システムに加えてEGRシステム(水冷式)の冷却効率を25%向上させた効果も大きい。EGRの働きは排出ガスのシリンダー内への部分的な還流(戻すこと)だ。これにより燃焼温度が低下していわゆる一気燃焼が抑制され、高温で燃焼させた際に発生するNOx(窒素酸化物)が抑えられる。
新型TDIではこのEGR温度を下げて空気密度を高めることで効果を向上させた。これは、ターボチャージャーなどの過給器がインタークーラーを用いて圧縮空気の温度を下げて過給効果を高めることと同じ考え方である。
つまり新型TDIではエンジン単体でのNOx発生を低め、さらに発生したNOxもAdBLueの二重噴霧システムが受け持つため、その分、トレードオフとなるエンジン性能、とりわけトルク特性の向上に振り分けることができた。前述したどこから踏んでもすぐさま反応してくれる走行性能はこうして誕生したわけだ。
有害成分をどう下げている?
ディーゼルエンジンの排出ガスで問題になるのはNOxとPM(ディーゼル排気ガス微粒子/DEPとも呼ぶ)の2大有害成分だ。このNOxとPMは相克であり、過去にはNOxとPMを同時に下げることが難しいとされていた。
現在、NOxはSCR(セレクティブ・キャタリティック・リダクション)システムを用いて無害化し、PMにはDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)システムを使って捕集し、最終的に高温燃焼によって除去する。トラックやバスなど大型商用車向けディーゼルエンジンから実用化されたNOxやPMの除去システム(アフタートリートメントシステム)は、今では乗用車にまで広く普及している。
さて、ゴルフの新型TDIではSCRシステムを改善してNOxの除去効率を高めたと述べた。従来型から採用している同システムのうち、AdBLueを排出ガスに噴霧する装置を二重に用いることで成立させたのだ。
ちなみにNOxは高温で燃焼させる(≒走行性能を高める)ほど多量に発生する。よって、単に低温にして発生を抑えただけでは燃焼力が弱まり、走行性能は必然的に低下する。
おまけに燃焼温度を下げると相克のPMの発生量が増加するから始末に負えない。そこでエンジン単体の燃焼効率は下げずにそのまま発生させ、発生したNOxを今度はSCRシステムで処理(無害化)する手法が一般的なのだ。
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