「フォーマット取引」はテレビを潤すか? 世界に広がる、TBS「SASUKE」の秘密
2012年から製作が始まった米国版は、今まさに他国への販売を進めているところ。外販している157カ国は日本版SASUKEだが、同時に米国版も放送される国が出始めるなど、いまだ番組販売、番組フォーマット販売とも拡大し続けている。
林氏は「SASUKEはかなり特別なケース」と話すが、SASUKEの障害セットをカンヌのビーチに設置してエキシビジョンを行う案も浮上したほどの大人気。成功を呼び込んだ過去のノウハウや社内の協力も、番組フォーマット拡販に寄与している。
番組フォーマット販売に対する理解が不可欠
そんなTBSが番組フォーマット販売に力を入れることができたのは、過去にいくつかの成功事例があったためだ。日本の放送枠は米国に次いで世界で二番目に高い。それはすなわち”地元である日本で成功することが利益になる”ことにほかならない。番組を海外輸出したり、フォーマット化して現地製作を進めることを意識して番組を作るのではなく、一瞬でも、少しでも視聴率が取れる番組を作ることが、民放プロデューサーの仕事になるが、それでもキッチリと売上が出てくれば認知も広がる。
TBS最初の番組フォーマット輸出は、韓国KBSに販売した「わくわく動物ランド」である。わくわく動物ランドはレポーターがいない動物だけの映像にナレーションを付けて動物の生態を紹介し、時折、クイズを交えながらスタジオでのトークが進む。わくわく動物ランドがウケたのは、ナレーターがビデオ内に入っていないため、簡単に現地ナレーションへと切り替えられることだ。
そこで動物映像と番組進行ノウハウ、それに脚本やクイズまでをセットにして商品にした。これならばスタジオ部分だけを現地制作するだけで、簡単に番組を作れるためだ。当時はまだ番組フォーマットそのものを購入する週間が定着していなかったそうだが、動物映像を安価に手配できることもあり、60カ国以上に販売したという。今でもオランダと中国では人気番組で、オランダでは”わくわく”という言葉が国自体に定着しているという。
余談ではあるが、かつて「なるほど・ザ・ワールド」の映像をクイズとともにフォーマット販売しようとしたが、ナレーターの差し替えが容易ではなかったため(映像そのものにレポーターが映っている)売れなかったとフジテレビ関係者。ちょっとしたことで、売れる、売れないが決まる。
わくわく動物ランドをきっかけにTBSの番組資産に注目が集まり、MIPで「カトちゃんケンちゃん、ごきげんテレビ」の面白映像を流していたところ、ハリウッドのプロデューサーが購入を打診。American Funniest Videoの名称で全米放送が始まり、別仕立ての番組で英国での放送も行われるようになり、過去の累積売り上げでは”ごきげんテレビ”がTBSトップなのだそうだ。
林氏は「あくまで日本での視聴率を取ることが一番」と言いつつも、海外への番組フォーマット販売という意識が作り手に生まれているかどうかが、売りやすさにもつながると話す。現場の製作者にもMIPの様子を視察させるなどして「徐々にフォーマット販売を意識した作り方をする作り手も出てくるようになった」と話す。
もちろん、その背景には成功裏例の積み重ねによる社内理解の拡がりやあるのだろうが、米英で成功して現地製作ともなれば、リスクを取ることなく利益をたたき出す金の卵になる可能性を秘めているからだろう。
話をドラマやアニメの輸出に戻そう。長年、MIPでコンテンツトレードに関わってきたベテランバイヤーは「日本のコンテンツは売りにくい環境にある」と断言する。アニメはオーディエンスのターゲットが狭い作品が多くなり、ドラマは韓国に押されて韓流ドラマよりも安価に放映権を売っていることが多いという話だ。
なぜそのようなことになっているのか。後半ではコンテンツ輸出時の障害となっている事情について話を進めていきたい。
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