「金がないと幸せになれない」と思い込む人の盲点 「幸せになるためのツール」を見落とす本末転倒

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そう問題は、人生の意味なのだ。生きる目標と言ってもいい。ただ息をしているだけじゃなくて、何かのために、何かに向かってちゃんと前向きに生きているんだという確固たる何か。結局人が生きていくのに最大に必要なのはそれなのだ。

そうなのだ。私はいつの間にか、人生の意味を「お金」に頼りきって生きていたのである。そのお金が失われるときになって初めて、自分が本当は空っぽだということに気づいてしまったのだ。

いずれにせよ、空っぽのくせに負けん気だけは強い私は、このままおめおめと惨めな気持ちでただただ残りの人生を細々生き永らえることだけは絶対に嫌だった。そのためにはどうしたらいいのだろうと、もう本当に真剣に考えたのであります。

正直言って、最初に思いついたのは「頑張って一発当てて、再びたくさんのお金を稼ぐ自分になる」ことだったということを、ここで告白しておく。まったくどこまでもお金にこだわっていた私である。というか、お金以外のことがマジで考えられなかったのだ。

でもその「一発当てる」ための具体的な策があるわけでもなんでもなかったので、この案は一旦保留とした。ま、当然である。そんな夢物語はひとまず置いといて、給料がもらえぬ現実から目をそらさず、どうにか生きていくことが先決である。

お金という一神教からの脱却

で、次に思いついたのが、これだった。

「人生の目標を変える」

これまではなんだかんだ言って、要するに「お金を稼ぐこと」を人生の第一目標としてきた。でもその目標を果たせなくなった今となっては、お金以外の何かを人生の目標に据えるしかないと気づいたのである。

ま、こう書いてみれば至極当たり前の、誰でも考えつきそうな、つまりはわざわざ胸を張って発表するようなことでもないような気もしてくる。

でも今にして思えば、これは実に画期的なアイデアであった。

何しろ生まれてこのかた半世紀にわたり、お金という一神教を心の底から信じ切ってきた人間が、いわば「別の神」を見つけようというのだ。いや本当に見つかるかどうかはまだわからなかったが、別の神がいるのかもしれない、いや万一いないとしても、どうにかして「いる」ってことにしなきゃならんということを自ら認めたのである。

それはまさに人生の一大事であった。革命であった。そしてもちろん、こんなアイデアが突然降ってきたわけではなく、この時、私はすでに、ある具体的な、これからの私が死ぬまでの生涯をかけて追い求めるに値するような気もする、ある具体的な目標を見つけていたのである。

(つづく)

稲垣 えみ子 フリーランサー

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いながき えみこ / Emiko Inagaki

1965年生まれ。一橋大を卒業後、朝日新聞社に入社し、大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめる。東日本大震災を機に始めた超節電生活などを綴ったアフロヘアーの写真入りコラムが注目を集め、「報道ステーション」「情熱大陸」などのテレビ番組に出演するが、2016年に50歳で退社。以後は築50年のワンルームマンションで、夫なし・冷蔵庫なし・定職なしの「楽しく閉じていく人生」を追求中。著書に『魂の退社』『人生はどこでもドア』(以上、東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

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