「父に怒られた記憶ない」と明かす彼の深刻な悩み 社会に出るのが怖い学生たち増加の裏側
「友達が平気な顔で口にする言葉に傷ついたり、アルバイト先で注意されて落ち込んだりして、なかなか立ち直れないことがあります。とくにきつい言い方で注意されたり、怒鳴られたりするのが苦手です。すごいショックを受けて、心が折れそうになります。
ほかの友達は、似たようなことがあってもそこまで傷ついたり落ち込んだりしないみたいで……。なんでみんなあんなに心がタフなんだろうって。どうして自分はこんなに落ち込むのかと情けなくなって、自己嫌悪に陥ります」
それだけじゃない、とA君は続けた。
「大学の友達は、レポート課題を与えられると、図書館で本を探したり、書店に行ったりとテキパキと動けるのに、自分は何を読めばよいのか、どうまとめたらよいのかと迷うばかりで、なかなか行動に移せない。なぜあんなふうに行動できるのか不思議だし、うらやましくてたまりません。自分も、もっと自分から行動できるようになりたいんです」
怒られることに慣れていない
このように語るA君は、素直でやさしい性格のようである。ただ、叱られること、怒られることに慣れていないため、厳しさに対する耐性がないのだ。
子どもの頃から、父親がA君の心を鍛えるということをしなかったため、「壁」にぶつかった衝撃を吸収する心の装置が機能せず、衝撃にさらされるたびに気持ちが萎縮してしまう。これでは注意されたことから学んだり、それを自分の糧にして乗り越えたりすることができない。母親がA君を鍛えることもできたはずだが、母親も父親と同じく穏やかでやさしかったという。
このままではいけないと本人が危惧するのは、もっともである。社会に出たら、職場の上司や先輩、あるいは取引先や顧客から注意や叱責を受けることもあるだろう。そのたびに落ち込んだり腹を立てたりと感情的に動揺していたら、日常業務を無事にこなすこともできないし、注意や叱責を糧にして仕事力を高めていくこともできない。厳しい言い方をすれば、経験から学ぶことのできない「使えない人材」になってしまう。いや、それ以前に厳しい就職活動を乗り切るのも難しいだろう。
A君の父親の問題点は主に2つ考えられる。
第1に、「いつも笑顔でやさしい言い方」だったため、A君の厳しさへの耐性が育たなかったと同時に、社会化が十分になされず、社会性が身につかないままに自立の年齢を迎えてしまったこと。
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