「父に怒られた記憶ない」と明かす彼の深刻な悩み 社会に出るのが怖い学生たち増加の裏側

「父親から怒られた記憶がありません」と相談に来た大学生の男性。いったい何が起こっているのでしょうか(写真:プラナ/PIXTA)
かつては、公園でいたずらをしたら近所のおじさんおばさんに叱られる。そんな風景が一般的だっただろう。しかし近年では、「よその子」を叱る地域の目は減少しつつあり、それゆえに、親がきちんと子どものしつけを行う必要がより高まっている。その一方で、このような環境の変化とは裏腹に今、自分の子どもを叱れない親が増えており、その結果として子どもの自立にも大きな影響を及ぼしているというのだ。日本の家庭にいったい何が起こっているのだろうか。教育心理学者、榎本博明氏の新刊『イクメンの罠』から抜粋して紹介する。
「父親から怒られた記憶がありません」
大学2年生のA君が、悩みを抱えて相談に来た。
「父親はとても面倒見がよくて、典型的なイクメンだと思います。母親と同じように身のまわりの世話をしてくれ、とてもやさしいイメージがあります。弟を抱っこヒモで抱っこしたり、ベビーカーに乗せて歩いたりしている姿を覚えているので、自分もそんなふうにしてもらっていたのだろうと思います。
私が小学校に入ると、父親は仕事から帰るなり宿題のことや明日の持ち物の用意を気にかけてくれました。励ましてくれたり、やり方がわからないときにはアドバイスをしてくれたり。周りにはちゃんとやらない友達や間違ったやり方をしている子もいましたが、私は父親のお陰で、いつもきちんと宿題ができていました。
『悪いことをすると父親からメチャクチャ怒られる』と父親を怖がる友達もいましたけど、自分は父親から怒られた記憶がありません。よくほめてくれたし、いつも笑顔でやさしく接してくれました。もちろん、悪いことをすれば注意されましたが、言い方がやさしいため、怒るという感じではありませんでした」
こう語るA君が、なぜ深刻な表情でやってきたのか。それは、自分が友達と比べて異常に傷つきやすいことに気づいて不安になり、どうにかしなければと思ったからだという。卒業して社会人になる前に、自分の性格を何とか改善したいというのだ。
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