「つぶしがきく仕事」ばかり選んだ50代社員の末路 リストラ対象者と向き合い知った「人生の残酷」

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面談したリストラ対象者の履歴書や職務経歴書とともに残されたヒアリングシートには、彼らが置かれた経済状況が仔細にメモされている場合もあり、大半の人たちは家族を養いながら家のローンを支払い、子どもたちの学費負担も重くのしかかっていました。

こうした人たちが置かれた境遇を「自己責任」と切って捨てるのは簡単ですが、彼らが就職した時代は新卒で入社した会社に定年まで勤め上げるのが普通の感覚で、転職は社会通念上、奨励されていなかったはずです。「自分のキャリアを自分でつくる」という発想自体が存在しなかった時代なのです。

それなのに会社に命じられるままに配属され、転勤命令に応じ、家族を養うために懸命に働いてきた人たちが、経済的にも精神的にも苦境に陥っている……。

そんな状況を目の当たりにして大きなショックを受けた僕は、「では、彼らには何が欠けていたのか?」「果たして、こうした事態は回避可能だったのか?」と、これからの自分の働き方について、自分の頭で真剣に考え始めたのです。

本当に「つぶしがきく仕事」なんてあるのか?

皆さんは学生時代の進路選択や仕事選びといった人生の節目で、「この選択はつぶしがきくだろうか」と考えたことはありませんか?

・営業やマネジメントは「つぶしがきく」
・専門職に就ければ「食いっぱぐれない」

そんな言葉がありますが、果たして本当にそうなのでしょうか。この「つぶしがきく」というのは、なんだか不思議な言葉だと思います。「やりたいことなんてわからないし、まだ決めきれないから、とりあえず無難な選択をしておけば間違いない。なるべくつぶしがきく選択をしておけば、後々やりたいことが見つかったときにも汎用性がきくし、食いっぱぐれはないだろう」。

そんな思いが透けて見えます。しかし、本当にそうなのでしょうか。想像してみてください。

小学校〜中学校にかけて、特に好きな科目も得意な科目もなく。
高校は全日制の普通科で、受験に向けて苦手科目の克服に邁進。
大学は総合◯◯学部の◯◯学科に入学。サークルでは幹事。
就職活動中もやりたいことがわからず、知っている企業を片っぱしから受ける。
内定した会社に総合職として入社し、営業か事務職として異動しながら、徐々にチームをまとめるリーダーや管理職に昇進していく。

この人は延々とつぶしがきく選択をし続けているわけですが、では一体、いつまでこの人は「つぶしがきく人生」を送り続けられるのか、疑問に思いませんか? 本当にこの生き方は、「つぶし」とやらがきいているのでしょうか?

もちろん、それで大過なく過ごせるならいいのですが、実際には想定外のことが起こります。リーマン・ショック、東日本大震災、コロナショック。誰も想定できなかった規模の災害や不景気が突然訪れて、会社どころか業界ごと蒸発させてしまうこともあります。

次ページ「つぶしがきく選択」をし続けてきた人の末路
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