北朝鮮の恐喝ラブコールでもアメリカは応じない 強硬姿勢に転じた北朝鮮の思惑と行動の意味

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――バイデン大統領は、自分が副大統領だったオバマ政権時代の「戦略的忍耐」、悪く言えば傍観的な態度を北朝鮮に対してとっていませんか。

その通りだ。バイデン政権は事実上、この「戦略的忍耐」を復活させたと言っても過言ではない。これは、ホワイトハウスとしては非常に合理的な態度だ。北朝鮮と核開発の凍結や核兵器削減において合意するためには、アメリカはより多くの譲歩をするほかない。しかし、そうした譲歩を行えば、アメリカ国内で激しい批判を浴びることは確実だ。アメリカ中のメディアや連邦議会、外交エリート、さらには一般世論まで、誰もが激しい怒りを示すだろう。簡単に言えば、「世界の指導者であるアメリカ大統領が、遠い東洋の小さい、おかしな独裁国家に降伏した」と憤るはずだ。

当然、こんな批判を自ら浴びたいアメリカ大統領は絶対にいない。アメリカの長期的な国家利益を考えれば、北朝鮮と妥協することはよいことだ。しかし、ホワイトハウスに住む者、すなわちアメリカ大統領にとって北朝鮮との妥協は政治的危機を招き、かつとてもコストが高い政策になる。

一方で、アメリカは核拡散を重要な脅威として捉えている。そのため、アメリカは北朝鮮の核問題を完全に無視することはできない。

北朝鮮は「アメリカの脅威に対抗するために核開発を行っている」と主張している。そのため、アメリカは「非核化」というスローガンを放棄できない。私が20年前から年に2、3回の頻度で会っているアメリカの専門家のほとんどが、すでに5、6年前から北朝鮮の非核化という希望を失っている。

非核化は望み薄だが絶対に認めないアメリカ

――であれば、北朝鮮が核保有国であることをアメリカが容認する可能性があるのでしょうか。

アメリカ政府にとって、北朝鮮の非核化が不可能になったと公式に認めることはきわめて難しい。なぜなら、これはホワイトハウスにとって政治的爆弾になるためだ。言い換えれば、もしもアメリカ大統領が「北朝鮮を核保有国として認めるかのように思われる書類に署名した」場合、その大統領はアメリカ国内でとても厳しい反発に直面する。そのため、北朝鮮の非核化が不可能だという事実を今も、そして予測可能な未来にも絶対に認めることはできない。

――それでは北朝鮮にとって、アメリカとの合意点を失うことになりますね。

もちろん、これは北朝鮮にとってよいニュースではない。北朝鮮は中国が支援するので致命的な危機を回避することができるが、それでも北朝鮮は制裁緩和を望んでいる。だからといって、非核化をする考えはまったくないだろう。それでも、北朝鮮はアメリカと対話しながらある程度譲歩して制裁の緩和・解除を、そしてほかの譲歩をアメリカから提供されることを望んでいる。

そのアメリカは、今は何もせずにただ席に座っているだけの状況だ。それゆえに、北朝鮮はアメリカを動かすためにミサイル発射などの圧力をかけ始めた。現在のミサイル発射も、そして1月19日に朝鮮労働党中央委員会第7期第21回政治局会議で「対アメリカ信頼醸成措置の見直しを検討」したという発表も、アメリカに圧力をかけるための手段の1つだ。

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