中国「石炭産出量」が過去最高更新の気まずさ 「脱炭素」推進のはずが、電力不足で反動増に

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中国の電力供給は現在も石炭火力発電に大きく依存している(写真は国有石炭大手の神華能源のウェブサイトより)

中国の石炭産出量が過去最高を更新した。国家統計局が1月17日に発表したデータによれば、中規模以上の石炭企業による2021年の産出量は40億7000万トンと、前年比4.7%増加。新型コロナウイルスの大流行が始まる前の2019年と比べても5.6%上回った。

産出量増加の背景には、中国国内で新型コロナの流行が落ち着き、石炭需要が(火力発電向けを中心に)大きく回復したことがある。中国のエネルギー統計によれば、2021年の全国の電力消費量は前年比10.3%増の8兆3000億キロワット時に達した。そんななか、石炭火力に次ぐ発電能力を持つ水力発電の出力が(渇水の影響などで)例年より不足し、発電用石炭の需要がさらに高まった。

実は2021年の年初から9月まで、中国の石炭産出量は前年より低い水準で推移していた。「二酸化炭素(CO2)の排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラルを実現する」という中国政府の国家目標や、炭鉱操業の安全問題などの複合的な要因からだ。

石炭の市場価格が乱高下

ところが、産出量の減少に電力需要の増加が重なり、石炭の市場価格が高騰。その結果、多数の石炭火力発電所が経営難に陥り、電力需要に見合う量の石炭を調達できなくなった。2021年9月末には、東北地方や華東地方、華南地方などで工業用電力の供給制限が広がり、一部の地域では民生用電力も制限されて市民生活にも影響が及んだ。

こうした事態を重くみた中国政府は、2021年10月から炭鉱の臨時増産を認める緊急措置を発動。石炭産出量は一気に急拡大し、通年では2020年を上回ったのである。

本記事は「財新」の提供記事です

産出量の大きな変動により、石炭の市場価格は乱高下した。1キログラム当たりの発熱量が5500キロカロリーの発電用石炭の相場は、2021年2月末の時点では1トン当たり570元(約1万235円)だったが、そこから右肩上がりに上昇。同年10月中旬には同2600元(約4万6688円)の史上最高値をつけた。ところが(供給の増加により)、2カ月半後の2021年末には同793元(約1万4240円)とピークの3分の1未満に下落した。

なお、2022年の産出量について、石炭業界では「大きく増える可能性は小さい」との見方が主流だ。中国政府はカーボンニュートラルの国家目標を引き続き推進しており、経済運営も(成長最優先ではなく)安定重視のスタンスを採っている。そのため、石炭の需要は一定程度の減少が予想されるからだ。

(財新記者:白宇潔)
※原文の配信は1月17日

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