海に捨てないロケットが人類の未来に不可欠な訳 「使い捨て」という宇宙利用・開発の常識への挑戦

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大航海時代に続き、18世紀半ばにイギリスで産業革命が起きた。「イギリスの産業革命で蒸気機関、つまり石炭ですね、化石燃料中心のエネルギー社会になった」と眞鍋さんが言うとおり、産業革命は人間活動による地球温暖化の起点である。「世界の平均気温が産業革命前に比べて、何度上がったか」が問題にされ、パリ協定はその上昇幅を「2度を十分下回るよう抑える。1.5度に抑える努力をする」を目標とする。化石燃料の使用で二酸化炭素が大気中に排出・蓄積し、その温室効果により気候変動(地球温暖化)が引き起こされる。

産業革命以降、鉄道、車、航空機による運輸・輸送網が発達し工業化が発展、グローバリゼーションや情報革命が進んで人々は今、大量生産・大量消費・大量廃棄の時代を生きる。産業革命以降、人類がたどった発展の負の側面が問題として広く共有されたのはごく最近のことだ。だから、宇宙の大航海時代に入るときには持続可能な方法を追求しなくてはいけない、と眞鍋さんは強調する。

スペースウォーカーは再利用型とクリーン燃料によるロケットを打ち出している。

「今このタイミングで大事なこと」を訴えるCEOの眞鍋さん(撮影:河野博子)

スペースXの「席捲」と日本政府の危機感

2021年6月、文部科学省の「革新的将来宇宙輸送システム実現に向けたロードマップ検討会」が「中間とりまとめ」を発表した。読むと、日本政府が抱く危機感がひしひしと伝わってくる。なぜか。原因は、「近年、スペースX等が宇宙輸送市場を席捲する中で」と記されている宇宙利用・開発における大きな変化にある。

スペースXとは電気自動車大手のテスラのCEO、イーロン・マスク氏が2002年に設立した会社だ。地上100キロより上の宇宙空間に気象観測や衛星通信の活動を支える人工衛星などを運ぶ宇宙輸送ビジネスをリードする。

国連宇宙部がまとめている「宇宙空間における人工衛星などの物体目録(Outer Space Object Index)」によれば、2021年中に打ち上げられた人工衛星は計1807個で、うちアメリカから打ち上げられたものは1230個にのぼる。このうち、今も地球の周りの軌道を回っているのは、1190個。そのリストを見ていくと、スペースXの打ち上げによるものが8割以上を占める。

人工衛星を積んで宇宙空間に向かうロケットの打ち上げは、2021年の1年間に世界で120回以上だった。スペースXによる打ち上げ回数は31回を数えた。使われているのは、ファルコン9というロケットだ。

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