海に捨てないロケットが人類の未来に不可欠な訳 「使い捨て」という宇宙利用・開発の常識への挑戦

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このプロジェクトを含む新たな方向について、JAXAの研究開発部門第4研究ユニット長の沖田耕一さん(58歳)に聞いた。「いまや、アメリカ、それからヨーロッパ、民間事業者がどんどん出てきていますが、彼らすべてが『1段は再使用します』と宣言しているんですね。すなわち、これからの宇宙輸送は1段再使用できるくらいの技術がないと、宇宙利用の事業者からも相手にされなくなっていくのではないか。なんとなくもうそういった流れがどんどんできあがってきているという印象を持っています」と沖田さんは話した。

切り離したロケットはどうなる?

JAXAは2003年、宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団の3機関が統合され、発足した。前身機関の実績を含め、これまでに打ち上げたロケットは700基以上に上る。JAXAのホームページは、「切り離したロケットはどうなるのですか?」という質問にこう答えている。

「切り離したロケットなどは、そのまま海に落下させます。H-IIAロケットの場合は、第1段目に固体ロケットブースタを装着した2段式になっています。従って、燃焼の終了したロケットから順次切り離しを行い、海に投棄していきます」

落下する場所はほとんどが日本の海域で、ホームページはこうも説明する。「もちろん切り離しをしたロケットの落下予想海域を指定し、打ち上げ時間帯にその海域には入らないよう各方面に通知した上で打ち上げを行います」

沖田さんに確認すると、「ロケット1段は沈んでしまうんですね。回収ということはなかなか難しい。フェアリングと呼ばれる部分はハニカム構造で微妙に浮く。ほかの船にぶつかったりするといけないので、飛行機を飛ばしてどこに落ちたかを見て、回収する作業をしています」との説明だった。

海への投棄により、環境への影響はないのだろうか。「基本的にロケット本体で廃棄される部分は金属がほとんどで、これが深海に入っていくと、アルミとかは全部腐食して溶けてしまうので、有害な影響はほとんどないと考えているところです」。沖田さんはそう話したうえで、つけ加えた。

「ただやはり個人的には、そうはいっても、回収できるものなら経済合理性をもって回収していくものではないか、と思う」

いま世界で「循環型経済」への移行が望ましいとされ、食べ物、衣服、包装用品、家電製品などあらゆるモノを捨てることに対する目が厳しくなってきた。また、気候変動や生物多様性喪失の問題が指摘され、地球環境への影響を最小化することへの賛同がじわりと広がっている。そうした状況の中での沖田さんの思いではないだろうか。

リモートで取材に答える沖田さん(写真:JAXA)
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