海に捨てないロケットが人類の未来に不可欠な訳 「使い捨て」という宇宙利用・開発の常識への挑戦

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図A 日独仏のプロジェクトの実験機の着陸時の形態。全高13.5m、胴体直径1.1m、重さ3600kg。(画像:JAXAホームページより)

世界中でこれまで、ロケットは使い捨てであり海に捨てられてきた。法制度上の規制はない。産業廃棄物の規制に詳しい専門家は「ロケットを打ち上げて、その一部をはるか上空から海に落下させることは、国がやっていてしかも頻繁に行われたわけでもないので、法律の網をかけるという発想もなかったのでないか」(日本産業廃棄物処理振興センター葛西聡理事)と推測する。環境省海洋環境室によると、海洋汚染防止法は船舶、海洋施設、航空機からの油、有害液体物質、廃棄物の排出を規制するものであり、打ち上げたロケットが海に落下するケースは対象としていない。

宇宙空間に漂うスペース・デブリ(宇宙ごみ)の存在は、「人工衛星や国際宇宙ステーションに衝突する可能性があり、極めて危険」と問題視されている。しかし、打ち上げに使ったロケットの海洋投棄について懸念する指摘や研究はほとんど見当たらない。

「国家ミッションで影響が相対的に小さい」でいいのか

なぜなのか。問題視するのは考えすぎなのだろうか。スペースウォーカーのCEO、眞鍋さんはこう考える。「私見ですが、2つあると思います。1つは(ロケット打ち上げは)国家ミッションだったので国が行っていることを問題視しづらかった。各国が重工メーカーにロケットを作って、とお願いする構図で、ものを作って売るメーカーにとって再利用型はうまみに欠ける。もう1つは、現状ではロケット打ち上げは世界中で120回程度なので、『海に落としてもたいした影響はないですよ。それよりはタンカーによる油流出事故のほうがよっぽど海を汚染している』という説明が通ったのではないか」。

しかし今後、人工衛星の量は増え、それに伴いロケットの打ち上げが激増すると予想される。コストの大幅圧縮だけでなく、地球環境への影響という面も念頭にした技術開発に期待したい。

同時に、そもそも論を含め、宇宙利用・開発をめぐって広い視点で世界的な議論が必要ではないか。人工衛星による早く精緻な気象災害の予測が可能になれば、と心底思うが、むやみに他の惑星への進出を追求することはいかがなものか。1つの地球で生きる覚悟を決め、資源浪費型の生活を見直すべきではないか──といった議論も深めていくことが重要だ。

実業家ら4人が民間人だけで地球を回る宇宙飛行を終え、米フロリダ沖の海上に着水した(2021年9月18日)(写真:スペースX)
河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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