海に捨てないロケットが人類の未来に不可欠な訳 「使い捨て」という宇宙利用・開発の常識への挑戦

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ロケット・ファルコン9は数多くの人工衛星を積んでいることもあるし、国際宇宙ステーションと地上を行き来する宇宙船「クルードラゴン」が取り付けられていることもある。国際宇宙ステーションに2020年11月から半年間滞在した野口聡一さん、2021年4〜11月に滞在した星出彰彦さんが行き帰りに乗ったのがクルードラゴンだった。

ファルコン9は幾多の失敗を乗り越え、1段目を戻してまた使う再利用型の地位を確立した。海に浮かべたプラットフォームへの着地に成功したのは、今をさかのぼること6年前、2016年4月のこと。前年の2015年12月には陸地への着地が成功している。

ロケット第1段の再利用は、抜本的な低コスト化を狙ったものだ。宇宙ビジネスコンサルタント、大貫美鈴さんの著書『宇宙ビジネスの衝撃』は、通常の大型ロケットの打ち上げ費用約100億~200億円に対し、スペースXの場合は60億円台で、再利用でさらに削減されるとしている。ジェフ・ベソス氏が率いるブルーオリジンもロケットの再利用を行っている。

新たな宇宙ビジネスの展開は、日本政府に政策の見直しを迫った。ロードマップ検討委の中間とりまとめはこう述べている。

「国はコストの高いロケットを調達して打ち上げを続けることになるか、あるいは、わが国の宇宙輸送システムが世界の民間市場より退出させられることになり、わが国独自の打ち上げ手段を失い、自立的に宇宙にアクセスできなくなる懸念がある」

「ファルコン9」1段目の着地(アメリカ時間2021年6月30日)(写真:スペースX)

国が始めたロケット第1段再利用に向けた取り組み

ロケット第1段の再利用による価格競争力強化という国際動向を踏まえ、国は日独仏の宇宙研究機関によるプロジェクトを進めている。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)、ドイツ航空宇宙センター(DLR)、フランス国立宇宙研究センター(CNES)が共同で研究開発を行っている。日本は機体を帰還させる誘導制御技術や姿勢変更を行ってもエンジンに推進薬を安定して供給できる燃料タンクを担当。小型実験機による飛行試験が今年度中に実施される予定だったが、2年間延期される。

次ページ「1段再使用できるぐらいの技術がないと相手にされなくなる」
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