中国共産党が「少子化」を極端に恐れる本当の理由 「一人っ子政策」の失態で支配の正当性が揺らぐ

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少子化はほかの富裕国にも見られる現象だが、中国の場合は一人っ子政策の思わぬ遺産が問題を複雑にしている。中国政府は1980〜2015年、一人っ子政策の下で出産人数を徹底的に取り締まった。

この政策は出生率を抑えることで女性の労働参加を促し、経済成長を促進することを目標としていたが、その結果の1つとして、現在出産可能な年齢にある女性の人口を減らすことになった。

一人っ子政策は何十年にもわたって中国共産党の政策の柱だったため、その結果を問うことは政治的に危険な行為となっている。例えば、著名なエコノミストが先日、中国の出生率低下を解決するには、巨額の財政支出によって現金給付や税制優遇、保育施設の増設などを進めればよいとソーシャルメディアに書き込み、すぐさま検閲の対象となった。

中国の指導者・習近平は似たような政策を過去に持ち出したことがあるが、規模はもっと小さく、時間をかけた緩やかな対策とすることを選んだ。中国共産党の過去の政策がまねいた失敗を目立たせないようにするためだ。

中国の女性が結婚・出産を避ける理由

中国政府は最近、働く母親に対する職場での差別待遇を禁じる法律を刷新すると約束。受験競争による教育費の高騰に歯止めをかけるため、家庭教師の禁止にも踏み込んだ。教育費の高騰は、夫婦が子どもを持ちたがらない理由の1つとして頻繁に指摘される項目だ。

だが政府の対応の中には、問題をさらに悪化させ、結婚や子育てに対する不安を高めているものもある。

「独身女性はますます結婚に二の足を踏むようになっている」とシンガポール国立大学の社会学教授ジョン・ムーは語る。「結婚すれば、選択肢がさらに少なくなるからだ」。

中国当局は子どもを持つ女性に対する職場での差別を違法としているが、差別待遇は今でも普通に存在する。そのため、共働きが必要な夫婦は子どもを増やそうとしない。また、女性は仕事を持つことを奨励され、仕事では男性と同等に扱われると言われる反面、子どもや親の世話をするのは女性、という文化的な期待は変わっていない。

「女性は学業とキャリアの両面で背中を押されるようになった。しかし家庭における男女の関係性には、それに伴った変化が十分に見られない」とムーは指摘する。

(執筆:Steven Lee Myers記者、Alexandra Stevenson記者)
(C) 2022 The New York Times Company

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