大河「鎌倉殿の13人」が何とも身につまされる訳 主役・小栗旬がビジネスパーソンの共感を誘う

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これは「鎌倉殿の13人」が義時や北条家の成功譚ではなく、「さまざまな個性が関わり合いながら物語が進む群像劇である」ということ。「社内外でさまざまなビジネスパーソンが関わり合いながら、明暗が分かれていく」という点でも、やはりビジネスシーンと似ているのです。

感情移入をうながす現代語の多用

「そうは言っても、古い話すぎて感情移入できないのでは」「中世と現代を比べることは無理がある」と思う人がいるかもしれませんが、制作サイドはしっかり対策を立てていました。

第1話で義時の父・時政(坂東彌十郎)の「(平将門は)最後は首チョンパじゃねえか」というセリフがツイッターのトレンドランキングに入るなど話題を集めました。それ以外でも、義時の「まずいな。どんどんまずくなっていく」、兄・宗時が「平家をぶっつぶすぜ」、姉・政子が「バカおっしゃい」、妹・実衣(宮澤エマ)が「ゾッコン」などと、わかりやすい現代の言葉を使っていましたが、これはあえての脚本・演出。

大河ドラマ定番の戦国や幕末と比べれば、中世の物語に視聴者の感情移入が難しいのは間違いありません。しかし、三谷さんを筆頭に制作サイドは、単にコミカルなシーンを作っているのではなく、わからない昔の言葉より身近な言葉を使うことで、より視聴者が物語にのめり込み、笑い泣きしやすくしているのでしょう。

そしてもう1つ強調しておきたいのが、シビアなシーンで魅せる会話劇の妙。三谷さんの脚本は笑いの大きさから、どうしてもコミカルな会話シーンばかりピックアップされがちですが、決してそれがメインではありません。むしろ笑いがあるからこそシビアなシーンが際立ち、そこでの会話劇に人間の怖さ、ずるさなどをにじませています。

たとえば第1話でも、祐親が義時に父・時政の後妻・りく(宮沢りえ)について、「顔にあざがある」というトラップを仕掛けて関心の有無を探り、その返事を呼び水にプレッシャーをかけて、北条家が頼朝をかくまっていることを察しました。「裏切りや寝返りは生き残るための常套手段」「血縁関係がある身内でも殺し合う」という時代だけに、今後も成功や立場を賭けたシビアな会話劇が見られるはずであり、これもビジネスシーンに置き換えられる光景ではないでしょうか。

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