――日本企業でもジョブシェアの事例を聞きますが、多くは補助的な仕事で、学科長のような重要なポストでは聞いたことがありません。
頼まれたほうも、自分ができることなら快く引き受ける、というスタンスです。背景には“good citizen (よき市民)”でありたい、という発想がありますね。大学というコミュニティに協力するのがよき市民ですし、学部の価値観は、先ほど申し上げたとおり「個人に不必要な犠牲を強いない」わけです。
同じ発想は宗教への配慮にも表れています。たとえばユダヤ教の休日には教授会を開かないといった具合に、ダイバーシティ&インクル―ジョンも実践しています。
――ダイバーシティ&インクル―ジョンと言えば、米国では、駐車場の優先スペースなど車いすの方が活動しやすい配慮もされていた記憶があります。
障害者への配慮が進んだのは1990年のAmerican with Disability Act(障害を持つアメリカ人法) がきっかけです。この法律の基本精神は、企業が個人に寄り添うことで、バリアフリーのインフラ化が一気に進みました。駐車場しかり。建物の入り口にスロープをつけたり、車いすと机のサイズが合わない場合は、机を買い替えるといった具合に、雇用主が細かく対応することを求めています。
こうした対応によって、一時的にはコストがかかっても、障害者が活躍できる社会を目指す、という発想なのです。その結果、米国では軽度の身障者は健常者の89%の賃金を得て経済的に自立している。多様性を認め、受け入れる、ダイバーシティ&インクル―ジョンを実践することで、より多くの人の社会参加を可能にするのです。
私は今、日本ではワーク・ライフ・バランスや女性の労働問題を研究しています。その根本には、日本社会が、個人がもっと自由になることでよりよく生かされる社会になってほしい……という願いがあります。育児しながら仕事を続けることも、いったん離職した人が再び同種の仕事に就けることも、障害者への配慮もそれ自体に意味があるだけでなく、個人が生かされ、自由に生きられる社会につながると感じるからこそ、大事だと思い、研究を続けているのです。
(撮影:尾形文繁)
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