日本企業の人事部は経営に貢献できない 書評:『合理的人事マネジメント』を読む

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本書では、さまざまな企業における等級・グレードを紹介し、実際の等級別人員構成を点検している。その事例は、外部の視点で分析しなければ、社内的で「公平な制度」として通用しそうだ。しかし、その賃金水準を一般労働市場、あるいは同一業種の賃金と比べると、その差異が見えてくる。この「差異」を知ることから、合理的な施策が生まれる。

甘い査定が人員構成を歪める

本書で取り上げられたB社ではこのような合理的な分析によって、管理職クラスの人材が余剰になっている一方で、実務を担当する下位等級の社員が不足していることがわかる。このいびつな人員構成は一朝一夕に作られたものではない。長年にわたる甘い判定が積もり積もってたるんでいったのだ。たぶん今も惰性の人事は多いのだろう。

本書には多数のグラフが使われている。賃金、職階分布、人材フロー図、給与設計概念図などと多種多様だが、人事なら内容を把握し、本書の意図は読み取れるだろう。著者は日本企業のいびつな構造を図示することで証明しようとしているのだ。

本書を通読して思うのは、視点が包括的であることだ。また、人事の担うべき役割に関する叙述が戦略的、かつ具体的だ。概念や問題を述べるだけの類書は多いが、解決法を提示する本は少ない。

たとえば第2章で「企業人事に求められる3要件」を、①量の合理性、②システムの合理性、③継続の合理性として定義し、ポートフォリオとパフォーマンスの継続性が重要としている。

次にポートフォリオを①人員数、人員構成、②人員配置、③人件費単価に分解している。続いてパフォーマンスの中身を①マネジメント、②モチベーション、③コンディションに分けて解説している。記述がロジカルでわかりやすい。

面白かったのは“自律型人材”(第4章)の項目だ。人事施策の策定では“人事理念”“人事憲章”“理想的な人材像”に力を入れる企業が多く、その中で特に近年目立つのが“自律型人材”だと言う。確かに非常に多い。

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