PB(プライベートブランド)高級化の試練、競争は第2ステージに突入
78円の食パンを98円に値上げしたい--。この夏、某パンメーカーに、プライベートブランド(PB)を委託する食品ディスカウントストアから思いもよらぬ申し出があった。
このメーカーでは原料、人件費、光熱費を卸値の72%以内に抑えることが最低水準の採算ラインだが、安値のPBを客寄せにしたい流通からの値下げ要求で80%超えが常態化。少しでも生産ロスが出れば赤字になる厳しい取引が続いていた。
だが、秋商戦に向けたバイヤーとの話し合いでは一転。値上げの話が浮上し、250円程度の高価格帯商品への関心も高まっていた。「価格を1割下げても客数が1~2%しか伸びず、坪当たりの売上高下落が続く状況に流通側は焦っている」(同社幹部)。今、行き過ぎた価格競争に歯止めをかける動きが水面下で始まっている。
激安PBが足かせ 拡大戦略のジレンマ
食品のPBが本格的に浸透したのは2008年から。世界的な原材料価格の高騰を受けて、多くのメーカーがナショナルブランド(NB)の値上げに踏み切った。そこで流通各社は、割安感を訴求したPBを拡充して大ヒット。09年のPB市場は前年比2割以上も伸長し、食品市場全体のシェア8%強を占める2兆3000億円まで成長した(富士経済調べ)。
すっかり市民権を得たPBだが、イオン系のスーパー首脳の表情は暗い。「もはやPBを売るメリットはない」と言い切る。PBは中間流通や販促費用などを省くことで、NBよりも低価格かつ好採算なのが特徴だ。だが昨年、消費者の節約志向に合わせて流通各社は、従来よりもさらに低価格なPBを大量に投入。これにより採算が悪化し、NBより利幅の薄いPBも出始めたという。「現場ではPBを売ろうという意識が低下している」(同首脳)。
09年後半に入り、原材料価格の高騰が落ち着いたことも逆風だった。NBの安売りが再び活発化したことでPBとの価格差が狭まり、いよいよ成長に陰りが見え始めたのだ。