「サラダに虫」で野菜嫌いになった少女のその後 父が植えつけたトラウマを克服した意外な経緯

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「『無理せず、ゆっくり休んで』と言われて、甘えてゆっくり過ごしてたんですけど、ニートって向き不向きがあるんですよ。駅前を散歩して、カルディを偵察して……だけの生活は私は向いていませんでした。

そこで、『何もしないのは悪いし、暇だし……』と思って、だんだん家事を担当するようになったんですよ。そうしたら、彼から『サラダが食べたい』という要望が出てきて。

最初はデパ地下で買ってきていたんですけど、サラダって買うと高いんですよ。食費を考えるとさすがに毎日買うわけにはいきませんでした。だから、覚悟を決めて、『私、サラダ作る……!』って」

そのとき、恋人は結さんに、そんなトラウマ体験があったとは知らなかったようだ。だから、サラダを作り始めた当初は「年月が経ってだいぶ傷は癒えたものの、やっぱり洗うのは苦手で。恋人に洗うところまでやってもらっていました。恋人は『べつに洗うのはいいけど、なんで……?』って感じでした」とのことだが、意外なことから、結さんは野菜洗い嫌いを克服することになる。

「ひとつは、4分の1カットのものを買うようになったことです。断面から中を確認できるので、心理的に安心できるんですよ。少し割高だけど、もしも虫が出てきたらまた捨てちゃうと思ったので。

もうひとつは、ロメインレタスが出てきたこと。私が大学生の頃ってまだそんな見かけなかったと思うんですけど、だからこそ、最初見つけたときは『なにこれ! 洗いやすそう!』って思いました。しかも、中には水耕栽培なものもあることがわかって、『これなら触れる!』って。そうやって少しずつ触れるうちに、だんだん慣れていけたんです」

一般の玉レタスのように結球しない、リーフレタスの一種であるロメインレタス。一般的なレタスと異なり、半結球に留まるタイプで、北アメリカでは古くからの定番野菜だが、日本国内で知名度が上がってきたのはここ最近の印象だ。ビタミン類、βカロテン、葉酸など豊富な栄養素を含み、健康に良いとされているが、まさか、ビジュアルが理由で好きになる人がいたとは。

父親には今も恨めしい気持ちが…

虫きっかけ、というか父きっかけのエピソードを話してくれた結さん。読者の中には「飯の恨みというより、トラウマの話なのでは?」と思う人もいそうだが、結さん自身は「実際、父に対しては、恨みに似た気持ちはあります」と語る。

「だってあのとき、そのまま捨てさせてくれていたら、こんな20年も引きずることはなかったと思うんです。野菜が新鮮なのはわかるし、生産者さんがいるのもわかるけど、子どもの気持ちを全然わかってなかったというか。思い出したように料理するのはいいけど、普段全然作らない立場で、食べることを押しつけるのはおかしいとも思いますしね」

ここまで話すと、結さんは軽くうつむいた。なにやら考えた表情で、数秒後に口を開くと、こぼれたのはこんな言葉だった。

「でも、昔の大人ってわりとそういうところありましたよね。たとえば、小学校の先生とか。私、もともと食べるのが遅いほうで、昼休みにずっと給食を食べ続ける常連だったんです。とくに苦手だったのは牛乳で。他の男子に譲ることが禁止された学年もあったんですけど、そのときは泣きながら飲んで……」

ハンバーガーをたいらげたテーブルのうえで、ぐっと握られる両手を見るうちに、「他の恨みも出てきそうだな……」と内心思った筆者であった。

味覚、触覚、嗅覚などを総動員するだけあって、記憶の中に深く刻まれやすい食事という行為。いくら本人のためと言っても、あまり無理に食べさせることは、必ずしも良い影響を及ぼすわけではないようだ。

本連載「忘れえぬ『食い物の恨み』の話」では、食べ物にまつわる、人生の悲哀を感じさせるエピソードをお持ちの方からの体験談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
岡本 拓 編集者・ライター

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Taku Okamoto

編集者・ライター。早稲田大学文化構想学部卒。ネットニュース運営会社(4年)などを経て、フリーランス(6年)に。2021年12月から東洋経済オンライン編集部にジョイン、2024年8月に社員に。谷頭和希さん、大木奈ハル子さん、城戸譲さん、井手隊長さんなどの書き手を担当中。媒体で開催する東洋経済オンラインアワードでは2022年にMVP(千駄木雄大さん)、2023年にクリエイティブ賞(大木奈ハル子さん)。登壇歴は「プロ育成ゼミ第1期〜三宅香帆と谷頭和希の文章講座」(2024年)など。会社四季報では外食業界を担当することが多いです。

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