結さんの言葉に、違和感を覚えた人もいるかもしれない。いや、もしかすると冒頭から違和感があった人もいただろう。結さんが大好物としているハンバーガーにも、レタスという葉物野菜が含まれているからだ。
しかし、結さんいわく、「調理済みは平気なんです。カットして一枚一枚分けられたら、自然ときれいに洗われているだろうし」とのこと。聞いている側としては、それでも若干不思議に思わなくもないが、とは言えトラウマというのはそういうものなのだろう。
話を戻そう。この一件の後も、結さんは自炊に果敢に挑戦し続けた。もともとセンスがあったのか、1年もする頃にはさまざまなものを作れるようになったが、しかし、「野菜を洗う」という行為の際には、トラウマが爆発することも少なくなかったという。
「あるとき、ブロッコリーを茹でて食べようとして、水につけてたんです。そしたら虫が浮いてきて、鳥肌が立っちゃって。食べなきゃ食べなきゃって自分に言い聞かせたんですけど、どうしてもサラダ事件の光景を思い出して、『生産者さんごめんなさい……』って泣きながら捨てたこともありました。
理屈では、わかるんです。虫がいるのは農薬が少ない証拠で、体に優しい野菜なんだって。でも、どうしても無理で……。そういうことを繰り返すうちに、『残したときの罪悪感』も増えていって、レタス、キャベツ、ブロッコリー……と、触れない野菜が増えていきました」
こうなってくると、あのとき、素直に捨てていたほうが、結果的に野菜農家的にもよかったのでは……と思えてくる話である。
こうして、野菜嫌いならぬ「野菜洗い嫌い」になった結さんは、次第に生野菜から距離を置いていくことになった。
トラウマ乗り越えたきっかけ
そんな彼女だったが、ひょんなきっかけから葉物野菜へのトラウマを克服することになる。社会人3年目にできた恋人の男性が、無類のサラダ好きだったのだ。
「彼は健康的な食事が好きな人。サラダに関しては、専門店をめぐるほどの愛好家で、デートでカフェに行ったときなんかも、ハンバーグとかオムライスを押しのけて毎回、サラダボウルを頼む、男子には珍しいタイプでした」
交際から半年が経過した頃、結さんは体を壊して仕事を退職、恋人の家に引っ越すことになった。大学時代から7年住んだ家に別れを告げ、慣れ親しんだ街から離れ、家具家電のほとんどを処分した。文字通り、体ひとつで身を寄せた。
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