すぐ「おなかが痛い」と小2娘が訴える本当の理由 児童精神科医が子育てに悩む親へ伝えたいこと

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大人でも、夫や妻や子どもに対して、謝らなくてはならない場面は必ずあります。食事の時間に遅れた、うっかり何かをこぼしてしまった、お休みの日に疲れてしまって遊びに行けなくなった……。いくらでもあるでしょう。そんなときに、「ごめんなさい。許してくれるかな?」と大人が謝る姿を見せるのです。

同時に、「いいよ」「もう大丈夫だよ」と答えることも大切なことです。謝ることが屈辱ではないのだということもまた、お父さんとお母さんが示してあげてください。

できるようになるのを「じっと待つ」

「子どものしつけは厳しいほど効果がある」と思っている方は少なくありません。それはおそらく、その方が育ってきた家庭の文化なのでしょう。それを一概に「いい」「悪い」というつもりはないのですが、こうやって子どもの精神科医の仕事をしていると「厳しくすれば、いい子に育つ」とはとても思えません。問題行動があって精神科を訪れる子の多くが、親から厳しく育てられた子どもだからです。逆に、やさしくされすぎて問題行動が出た子を見たことはありません。

わたしがしつけのキーワードとしてあげているのは、①穏やかに、②繰り返し言って聞かせて、③できるようになるまでゆっくり待ってあげる、という3つです。

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なかでも「できるようになるまで待つ」ことはとても重要です。このご夫婦も「待とう」と思っているようですが、少しせっかちなようですね。

「ごめんなさいが言えない子とは遊ばないよ」と脅すのではなく、「ごめんなさいを言えるようになるといいね」というような姿勢で待ってあげるのがいいのです。それは5分待つ、10分待つ、というのではありませんよ。いまは言えなくても、4才になったら、5才になったら、言えるようになるかな、という姿勢で待つことです。

早くできることがいいわけではありません。遅いから悪いわけでもない。ゆっくりと、その子の心の内側で、機が熟すのを待つのです。果物と同じですね。熟すまでじっと待つことでおいしい実が育つのです。

お父さんには、このページをどうぞ読ませてください。子煩悩で、子育てに協力的なお父さんなのであれば、きっと理解してくださるでしょう。

そしてご相談者の方は、じょうずに2人の間に入ってあげられるといいですね。お父さんには「そんなにしからないであげてね」と、息子さんには「悪いって思っているんだよね。ごめんって言えるかな? 今日は言えなくても、次は言えるようになるといいね」と、両方を立てるような言い方を心がけるといいと思います。

まだたった3才です。あせって無理やり言わせる必要はありません。でも、悪いことをしたことは十分わかっているはずですよ。

佐々木 正美 児童精神科医

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ささき まさみ / Masami Sasaki

1935年群馬県前橋市生まれ。新潟大学医学部医学科に編入学し、1966年同校を卒業。その後、東京大学で精神医学を学び、同愛記念病院に勤務。1970〜1971年にブリティッシュ・コロンビア大学に留学、児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後は、国立秩父学園、東京大学医学部精神科に勤務後、小児療育相談センター(横浜市)、横浜市南部地域療育センターで児童臨床医として地域ケアに力をそそぐ。川崎医療福祉大学特任教授(岡山県)、ノールカロライナ大学非常勤教授、横浜市総合リハビリテーションセンター参与などを歴任。著書に『子どもへのまなざし』(福音館書店)など多数。2017年没後も、そのメッセージは多くの親たちを励まし続けている。

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