ROEが高いということは、株主から集めた資金を効率的に使って利益をあげており経営の効率性が高いということだ。投資家やマスコミなどがよりROEに注目するようになれば、経営者もこれに応えざるを得ず、ROEの向上を経営の目標にする企業が増える。これまでのように「増収増益」というような単純な量の拡大ではなく、質の改善を目指すようになるという意味ではよいことだ。しかし、それが行き過ぎてROEという一つの指標にあまりに大きく依存するようになると、弊害も出てくる。
ROEは借入金の比率が上がれば高くなる
米国の大学入試では、SATやACTと呼ばれる全国テストの点数を提出するのが一般的だが、最近ではこの点数を要求しないトップクラスの大学が出てきた。その原因は、SATやACTの受験指導を行う塾のようなものが出てきて、子供の能力ではなくて塾に通えるかどうかで成績が左右されてしまうようになったからだという。
計画経済時代のソ連や中国では国が鉄の生産量を目標として示すと、工場では質の悪い鉄を作って目標を達成するということが頻繁に起こったと言われている。指標を作るとそれを達成することに皆が注力して、本来の指標の趣旨から外れてしまうということが起こりがちだ。
完璧な指標が作れれば良いのだが、個人の能力は様々な要素からなる複雑なもので、一つの指標だけで測れるものではない。企業の経営状態を見る指標も、これひとつだけを見れば十分というものはなく、様々な角度から検討しなくてはならない。
ROEは企業経営を見る上で重要な指標であるが、これだけで企業の状態を判断するべきではない。株式投資を行う人たちが、このことを十分に理解していないと、後々問題を引き起こす恐れが大きい。
ROEとROAの間には以下のような関係がある。
ROAが高くて資産を効率的に使っている企業はROEも高くなる。しかし、必ずこの関係が成り立っている訳ではない。総資産(総資本)は、借入金(負債)と株主資本(自己資本)とに分けられるから、同じROAでも借入金の比率が高い企業ほどROEが高くなる。
企業の財務諸表の見方を説明した本には、大体「株主資本が少なければROEが高くなるので注意が必要だ。負債が多くてROEが高いというのは安定的な企業経営とは言えない」という趣旨のことが書いてある。借入金に依存した経営は、景気の悪化や金利の上昇に弱いからだ。
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