金持ちにはわからない「親ガチャ」の悲しさ残酷さ 「日本の未来」を暗示する格差大国アメリカの姿

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2週間後、私は上着をボーイスカウトのミーティングで忘れてきた。次の週に必ずとってくると言ったが、結局、上着は戻らなかった。

母は別の上着を買ってくれた。このとき母は、これはクリスマスプレゼントだと言った。これを買ってしまうとプレゼントを買えないからだ、と。

それが本当だったのか、母が私に教訓を与えたかったのかはわからない。おそらくどちらも本音だろう。それでも私は早めのクリスマスプレゼントに喜んでいるふりをした。しかしその数週間後、私はまた上着をなくした。

その日の放課後、家で母の帰りを待っていたとき、貧しいわが家の家計に自分が深刻な打撃を与えたと感じていた。たかが1枚の上着だったが、私は9歳だった。

この話のポイントは、私が困窮した生活をしていたということではない――どんな合理的な尺度を持ってしても困窮はしていなかった。ポイントは、「たかが1枚の上着」である。

私は経済不安を感じるようになっていて、たかが1枚の上着をなくしたことがこのうえなく恐ろしかった。あの日、感じた恐怖と自己嫌悪はこれからも決して忘れないだろう。

「上着をなくしちゃった」。私は母に告げた。「でも大丈夫、いらないから……本当だよ」。本当は泣きわめきたかった。

しかしもっと悪いことが起こった。母が泣き始め、やがて息を整えると、私のほうに歩いてきて、こぶしをつくって私の脚に数回打ちつけた。会議室で発言しているときに、テーブルを叩いているようだった。

母の怒りが高まったのか、きまりが悪くなったのかはわからない。母は2階の自分の部屋へ行き、1時間後に降りてくると、もう2度と上着の話はしなかった。

私はいまでもモノをなくす。サングラス、クレジットカード、ホテルのルームキー。家のカギすら持ち歩かない。必要ないから。

昔との違いは、それは不便だが、すぐに対処できることだ。資産は、ちょっとした打撃─―上着をなくす、未払いの電気料金、タイヤのパンク─―の痛みを和らげてくれる。経済不安は、その痛みを何倍にも増幅させる。

金持ち優遇の「夢の国・ディズニーランド」

金持ちになるのがよくて、貧乏になるのは悪いという指摘は新しいことではない。資本主義の原動力となる野心と動機を維持するには、おそらく貧しさという刺激が必要なのだ。

しかしアメリカの、そして公正な社会の根本には夢がある。勤勉さと能力があれば、誰もが上を目指し、貧困を抜け出して、不自由のない生活ができるはずという夢だ。しかし今日のアメリカにおいて、その夢は破れてしまった。

この格差は税法、教育制度、わが国の悲惨な社会福祉に根差している。それはもう文化に組み込まれてしまった。

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