チョウチンアンコウの男は女に全てを捧げて逝く メスに寄生するオスはやがてメスと一体化する
魚の世界では、メスのほうが大きいことは珍しくない。大きな体のほうが、よりたくさんの卵を産むことができるからだ。
とはいえ、チョウチンアンコウのオスとメスでは、サイズが違いすぎる。メスは体長40センチメートルにまで成長するのに対して、オスはわずか4センチしかないのである。
これでは、まるで同じ種類の魚とは思えない。発見者が寄生虫と見間違えたのも無理からぬ話だ。
しかも、チョウチンアンコウのオスの奇妙さは、小さいことだけではない。その生態も奇妙である。
チョウチンアンコウのオスは、メスの体に嚙みついてくっつき、吸血鬼のようにメスの体から血液を吸収して、栄養分をもらって暮らすのである。本当に寄生虫のような存在なのだ。
お互いに出会いのチャンスは限られている
チョウチンアンコウの小さなオスは、メスの灯す明かりを頼りにメスを見つけ出す。
闇に包まれた暗い海の底で暮らすチョウチンアンコウのオスにとって、メスを見つけ出すことは容易ではないし、見つけたとしても暗い海の底ではぐれることなく泳ぐのは難しい。そのため、メスの体と癒着(ゆちゃく)してしまうのである。
出会いのチャンスが限られているのは、メスにとっても同じである。やっと出会うことのできた小さなオスに栄養分を分け与えても、ずっとそばにいてくれることのほうが、子孫を残せるメリットがある。こうして確実に子孫を残せるように、オスはメスにくっついて同化する仕組みを発達させたのである。
まさにチョウチンアンコウのオスは、女性に養われているひものような存在なのだ。
それにしても、チョウチンアンコウのオスのひも生活は徹底している。
メスの体についたオスは、メスに連れられていくだけで、自分で泳ぐ必要はない。そのため、泳ぐためのひれは消失し、餌を見つけるための眼さえも失ってしまう。それだけではない。メスの体からオスの体に血液が流れるようになれば、餌を獲る必要もないので内臓も退化する。そして、メスの体と同化しながら、子孫を残すための精巣だけを異様に発達させていく。価値あるものは、精巣だけというありさまなのだ。まさに、精子を作るためだけの道具と成り果ててしまうのである。
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