チョウチンアンコウの男は女に全てを捧げて逝く メスに寄生するオスはやがてメスと一体化する

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チョウチンアンコウのオスは、受精のための精子を放出してしまえば、もう用無しになる。もはやひれもなく、眼もなく、内臓もない体である。

そして「ずっと、一緒」と約束したオスは、静かにメスの体と一体化してゆくのである。

深い海の底に、地上の光の届かない世界がある。

深い海の底に、人間たちの知らない生命の営みがある。

まさに男の中の男としての死にざま

その深い海の底でチョウチンアンコウのオスの体は静かに消えゆき、その生命も静かに閉じてゆくのである。
メスのひもとして、道具としてだけ生きたチョウチンアンコウのオスにとって、「生きる」とは、いったいどのような意味を持つのだろうか。

男の生き方としては、ずいぶんと情けないと思うかもしれない。

しかし、そうではないのだ。

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生命の進化を顧(かえり)みれば、生命は効果的に子孫を残すことができるように、オスとメスという性の仕組みを作り上げた。メスは子孫を産む存在である。そして、オスは繁殖を補う存在として作られたのだ。そもそも、すべての生物にとってオスは、メスが子孫を残すためのパートナーでしかない。誤解を恐れずに言えば、生物学的には、すべてのオスはメスに精子を与えるためだけの存在なのだ。

そうだとすれば、すべてを捨ててその役目を全うするチョウチンアンコウのオスは、まさに男の中の男と言えるのではないだろうか。

光の届かない暗い暗い海の底で、チョウチンアンコウのオスは、メスに吸い込まれるように、溶け込むように、この世から消えてゆく。

これがチョウチンアンコウのオスの生き方である。そして、これが男としての死にざまなのである。

稲垣 栄洋 静岡大学農学部教授

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いながき ひでひろ / Hidehiro Inagaki

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院修了。専門は雑草生態学。農学博士。自称、みちくさ研究家。農林水産省、静岡県農林技術研究所などを経て、現在、静岡大学大学院教授。『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『都会の雑草、発見と楽しみ方』 (朝日新書)、『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)など著書50冊以上。

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