カリキュラムが教育と元々無関係の言葉だった訳 ひとつの単語の意味がその周辺へと広がった

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

正解は(B)の戦車です。

古代ローマで大人気だった戦車競走

戦車と言うと、第1次世界大戦で登場した分厚い鋼鉄の車体でキャタピラを回転させて進むtank(タンク)を思い浮かべますが、そうではありません。古代エジプトやギリシア、ローマ、中国でも使われた「戦闘用の馬車」のことで、英語ではchariot「チャリオット」と言います。

この戦車を使った競走は、ギリシアで開催された古代オリンピックでもっとも注目を浴びる種目となり、古代ローマではお金を賭けるギャンブルになって人気が沸騰します。

「戦車」はラテン語でcurrus「クッルス」と言いました。それがやがて競走用に軽量化され、より速く走れる馬車に改良されました。その「小型戦車」のことをcurriculum「クッリクルム」と呼んだのです。

日本語でもそうですが、ひとつの単語の意味がその周辺にまで広がることがあります。この言葉は、やがて「戦車の走るコース」も意味するようになります。

古代ローマで戦車競走が行われた円形の大競技場をcircus(キルクス)と言いました。ローマ皇帝が人気取りのために行った愚民政策のことを「パンとサーカス」と言います。民衆の不満をそらすために食糧を無償で配給し、戦車競走などの競技場にも無料で入れるようにするなどの娯楽を与えたことから生まれた表現です。

この「サーカス」とは曲芸などをするサーカスではなく、もともとは戦車競走の円形競技場circusのことだったのです。ちなみに「自動車レース場」という意味のcircuit(サーキット)も同じ語源を持つ仲間の言葉です。

教育用語として蘇った「カリキュラム」

戦車競走は西ローマ帝国の滅亡後も東ローマで続けられましたが、次第に人気が衰え、最後には行われなくなってしまいました。
14世紀になってルネッサンスの時代が到来します。中世のキリスト教的な社会はすべてのルールや生き方を教会が定めるような、とても堅苦しいものでした。伸び伸びした人間らしい生活はできませんし、心が自由でなければ芸術も発展しません。ルネッサンスは、そんなカチカチに凝り固まった社会や精神からの解放を求め、人間らしい生き方を追求しようとする文化・精神運動だったのです。

『アッと驚く英語の語源』(サンマーク出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

古代ギリシアやローマ時代を理想として、その文化や思想、芸術を学び取って蘇らそうと古典研究が盛んになります。

スコットランドの大学では、カエサルやアウグストゥスが活躍した頃に使われていた「古典ラテン語」を教える学部が創設されました。その時に大学の教授陣が「学生を鍛え上げる研修コース」という意味でcurriculumというラテン語を選びます。

そして、そのままの綴りで「履修課程」という意味の英語となり、第二次大戦後に日本でも使われるようになったのです。

curriculumの一語からでも、英語の語彙や教養の世界が大きく広がります。「英語の語源」への興味は尽きることがありません。

前回:テディベアの語源を知ると意外とビックリする訳(12月21日配信)

小泉 牧夫 英語表現研究家、英語書籍・雑誌編集者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

こいずみ まきお / Makio Koizumi

1953年東京都生まれ。1977年青山学院大学卒業、NHK出版に入社。編集長として大杉正明・杉田敏・遠山顕等が講師を務めるNHK英語テキストの編集・統括を行う。また、英語力を生かし海外担当として世界中のブックフェアを駆け回り各国の出版社との版権交渉も行った。企画・編集した単行本は200冊に及ぶ。現在、英語表現研究家として活躍。著書に『世にもおもしろい英語 あなたの知識と感性の領域を広げる英語表現』『アダムのリンゴ 歴史から生まれた世にもおもしろい英語』(共にIBCパブリッシング)がある。エンタテインメントとしての英語を追求しながら、書籍や雑誌記事を執筆し講演活動も行っている。

https://makiotravel.hateblo.jp/about

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事