あのプーチンを脅かす露「反体制カリスマ」の正体 クレムリンは「現政治体制に対する危機」と認識

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多くが指摘しているように、現状でのもっと大きな問題は、ますます権威主義的傾向を強める体制に対抗する勢力を結集することだ。彼の政治観は第2段階で問題にすべきである。

革命家、独裁者、ポピュリスト、そして差別主義者。ナワリヌイはさまざまなレッテルを貼られてきた。どのレッテルも彼の一面をとらえてはいるが、その人物像を充分にあるいは包括的に言い当ててはいない。

ナワリヌイは複雑な政治家だ。ロシアの汚職にまみれた独裁体制を、民主主義体制に置き換えるという目標は終始一貫しているが、ほかはすべて流動的だ。彼自身も、彼の手法も。

移民の制限を求める態度は変えなかったが、ナショナリズム色は抑制している。ここ数年、彼は中道左派的な政策を全面に押し出している。ただし、それもある時点では消えていくかもしれない。ナワリヌイは、できるだけ広い切り口で社会とつながるようにプラットフォームを変えるからだ。場当たり的だといわれるかもしれない。だが、それだけ柔軟だからこそ、政権与党にとって危険な存在なのだ。

ナワリヌイとクレムリンとの関係についての疑問の多くは、基本的に答えられない。「プーチンはナワリヌイを恐れているのか」という疑問もそれに含まれる。その答えを探るには、プーチンの胸の内を見てみないといけない。少なくとも、側近中の側近に訊かないとわからない。

こうした障害に阻まれ、われわれは別の手法をとった。ロシア当局の発言と行動は矛盾することも多いので、現体制が特定の問題にどう対応したかを調べることにした。

クレムリンは非常に重く受け止めている

プーチンがナワリヌイをどう思っているのかは、わからないかもしれない。だが、プーチンが公の場でナワリヌイの名前を決して出さないという事実、ナワリヌイが2020年8月に毒殺未遂で体調を崩す前、彼に法執行員の尾行を付けていると認めた事実、そして、ナワリヌイが西側諸国のエージェントであるとしつこく言い張っている事実などから、類推することはできる。

『ナワリヌイ プーチンがもっとも恐れる男の真実』(NHK出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

当局がFBKの調査をどれほど煩わしく思っているのかは、わからないかもしれない。しかし、ユーチューブの動画を削除させたり、FBKの事務所にしょっちゅう強制捜査に入ったり、ついにはFBKをとりつぶしたりといった事実から、類推することはできる。

クレムリンがどれほどスマート投票作戦を重く受け止めているのかは、わからないかもしれない。しかし、「スマート票」なる目くらましサイトを立ち上げたことが報じられたり、2021年3月に大勢の市議会議員が連行されたり、全国各地のナワリヌイの選挙事務所がいっせいに捜索されたりといった事実から、類推することはできる。

こうした事実が示しているのは、プーチンの個人的な見解まではわからないが、クレムリンは間違いなくナワリヌイを非常に重く受け止めているということだ。ナワリヌイとそのチームの活動を、現政治体制に対する明白な危機だととらえている。しかし、クレムリンはナワリヌイだけが問題ではないこともわかっている。

ナワリヌイは好機をとらえるのがうまい。エリート層の汚職や格差といったテーマを巧みに浮かび上がらせ、人々を動員する。ナワリヌイを消せば、クレムリンはロシア社会の不満のはけ口をすぼめられるかもしれないが、国民が大きな不満をいだく根本的な理由――上がらない給料、上がる一方の物価、汚職まみれの役人――は残るだろう。

ヤン・マッティ・ドルバウム
Jan Matti Dollbaum

ドイツ・ブレーメン大学社会政策研究センター(SOCIUM)博士研究員。ロシア国立研究大学高等経済学院、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校客員研究員。専門は権威主義体制と社会運動の機能の比較展望で、とくにロシアと東欧における抗議活動に焦点を当てる。

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モルヴァン・ラルーエ
Morvan Lallouet

イギリス・ケント大学で比較政治学を専攻。論文テーマはナワリヌイとロシア。パリ政治学院で政治学の修士号を取得し、ロシアの国内政治と権威主義体制における野党について研究。

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ベン・ノーブル
Ben Noble

イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのロシア政治学助教。王立国際問題研究所のロシア・ユーラシア専門準研究員。ロシア国立研究大学高等経済学院の上席研究員。ロシア国内政治、立法政策、専制主義体制について研究。

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