バッティングで最も大事なのは、いかにタイミングを取るかだ。球速140kmの場合、投手がボールを離してから捕手のミットに到達するまでの時間はわずか0.44秒。投手がボールをリリースする前から打者はタイミングを計り、高さとコースに合わせてバットを振る位置を調整する。そうした緻密な作業である打撃において、打者は投手のリリースポイントが見づらいと、打ちにいく始動が遅れてタイミングを図りづらい。
高橋のフォームはサイドスローに近いスリークオーターで、「変則的」と形容される。だが、意図的に出どころが見づらいフォームにしたわけではないという。
「高校のときからずっとこのフォームでやっていて、たまたまそれが『見づらい』と言われているだけです。自分ではオーバースローだと思って投げていたので。ただ、自分が一番投げやすいところで投げているだけです」
練習を「再現」する力と、本番で「修正」する力
フォームという天性の才能に加え、高橋は再現力と修正力という武器を持っている。投手にとって、このふたつは不可欠な要素だ。同じフォームで投げることができれば、ボールの強さやコントロール、変化を意図したように操る確率が高くなる。一方、リリースポイントや腕の振り、軸足からもう一方の足への体重移動など、投球におけるすべての動作を精密に再現するには、地道な反復練習が必要になる。だから投手は投げ込みをするのだ。
ただ、言うまでもなく投手は人間だ。その日によって体調が違えば、温度や湿度、風、球場によるマウンドの高さや固さの違いなど、環境要因にも左右される。自分の投球動作がいつもと違うと感じた場合、どこが間違っているのか、どうすれば正しいフォームに戻すことができるのか、それを察知し、直すことのできる能力が修正力だ。再現力と修正力には、心技体の3要素が絡み合ってくる。
ひとつ断っておくと、高橋は決してコントロールのいい投手ではない。プロではストライクゾーンを内、外、高、低の4分割で投げ分けることができればトップクラスのコントロールを持つとされるが、昨季の高橋は1分割だった。
「自分にコントロール勝負は向いていないから、真っ向勝負のほうがいい。制球を意識すると手先でコントロールしちゃって、全部のバランスが悪くなります」
思い切り腕を振り、強いストレートをストライクゾーンというひとつの的に投げ込む。そうしたスタイルが象徴的だったのは、昨年8月18日の日本ハム戦だ。1点リードの6回1死2、3塁から登板すると、稲葉篤紀には「ストライクゾーンにいけば大丈夫」とストレートで空振り三振に斬って取る。続く赤田将吾にはストレートを8球続け、見逃し三振に仕留めた。
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