症状で使い分けるのがカギ「風邪に漢方」の極意 風邪の初期には葛根湯だけでなく香蘇散も有用

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かつて恩師の診察を見学していたとき、風邪をひいた患者さんがいらっしゃいました。そのときに処方内容を見た患者さんが、「同じ風邪なのに、どうして前回と薬が違うのですか?」と質問されました。すると恩師は次のように答えました。

「あなたが新幹線で東京から大阪まで行くとしましょう。横浜ではシウマイを買い、名古屋ではういろうを買う。名古屋でシウマイは買わないでしょう。風邪も一緒で、そのときの症状に合った処方でないと効き目がないのだよ」

非常にわかりやすい説明に、患者さんも深く納得していました。

さて、風邪に対する漢方治療の考え方で押さえておきたいのが、以下の図です。

風邪の初期段階とはどういう状態を指すのか、江戸時代の名医・香月牛山(かづきぎゅうざん)がこの状態を“感冒”と名付け、次のように述べています。

「春夏秋冬を通じて、軽い症には男女または老年幼少の区別をせず、まずは香蘇散(こうそさん)を用うるべきである」

だるい、眠い…風邪の超初期には「香蘇散」

この「軽い症」というのは、風邪という自覚のないくらいの状態で、だるい、眠い、やる気が出ない、おっくうに感じる、胃の調子が悪い、汗ばむといった症状が「何となく表れている」のが特徴です。こうした感冒の初期段階では、安静にし、十分な睡眠をとり、食事の節制をして、回復に努めるのが最善の方法で、栄養ドリンクなどを服用して誤魔化し、無理を重ねると、風邪がどんどん悪化してしまいます。

牛山先生が勧めている香蘇散という漢方薬は、すべての生命活動のエネルギーである「気」が滞った状態である「気滞(きたい)」や、「気鬱(きうつ)」を解消する処方です。子どもから妊婦、高齢者まで幅広く使われている、気の滞りを改善する処方です。

香蘇散を構成する生薬は、香附子(こうぶし)、蘇葉(そよう)、陳皮(ちんぴ)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)で、香附子以外は食品(例えば、蘇葉はシソ、陳皮はみかんの皮)です。

シソには胃を温めて魚貝類の毒を消す作用があるとされ、皮膚の病気にもよく効くといわれています。余談ですが、刺身のツマとしてシソの葉が添えられているのは、胃を温めて生ものによる冷えを防ぎ、生魚の毒を消すという役割があるからだと考えられています。

みかんの皮である陳皮はとても良い香りで、気の巡りを助け、胃の働きをよくします。生姜も同様に体を温め、胃の働きを高めます。気は胃で作られますから、胃の働きを増す生薬が多く配合されているのです。

さらに、牛山先生は続いて次のように述べています。「感冒の薬を5、6回、服用しても熱が下がらない場合は、もはや軽い感冒とはいえない。傷寒、あるいは温病(うんびょう)の治療をするべきである」。

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