「ゆっくり、じわじわ効く」「長く服用しないと効かない」など、慢性病のイメージが強い漢方薬ですが、元々は、感染症との闘いにより発展してきた医学だということ、多くの方は知らないのではないでしょうか。
“漢方医学のバイブル”といわれる『傷寒論(しょうかんろん)』は、後漢の時代に張仲景(ちょうちゅうけい)によって書かれたとされていますが、そこには風邪を含めた感染症の発症から死に至るまでの病状と治療法が詳細に記されています。
ちなみに、今回の新型コロナ感染症(COVID-19)でも、中国では傷寒論に基づいた漢方が大活躍しているようですが、残念ながら、日本では漢方は蚊帳の外にあったような印象があります。
それはさておき、感染症に対して漢方が最も有効なのは、潜伏期間から感染初期です。
風邪の治療に対する西洋医学との違い
どんな病気でも、病状が進むほど治りにくくなりますが、風邪も同じ。はじめは軽い症状ですが、進むと一気に猛威を振るって、人によっては肺を破壊して死に至らしめるような重篤な症状になることがあります。これは不始末によって残った火が一気に燃え広がり、大火事になるようなもので、漢方は、この最初の小さな火を消すことを得意としています。
では、初めに、風邪の治療に対する西洋医学(現代医学)と漢方の大まかな違いを述べたいと思います。
西洋医学では、熱があれば解熱薬、咳が出ていれば鎮咳薬というように、症状を抑える治療(対症療法)が中心となります。一方、漢方では根本原因にアプローチする治療を行っていきます。極端にいえば、「熱が出ているのであれば、出し切ってしまえ!」という発想で、自然な経過を促すのです。さらに、「病むこと自体が治療を兼ねる」という考えもあって、風邪が大きな病気を防ぐ、防波堤のような役割であると肯定的に捉えます。
もちろん、両者にはそれぞれ長所と短所があります。
西洋医学の場合は症状に対する薬があらかじめ決まっていて、同じ症状なら、毎回ほぼ同じ薬が処方されます。私がかつて勤務していた調剤薬局でも、風邪の患者さんが持ってくる処方箋は、ほぼすべて同じ処方でした。
漢方の場合、刻々と変化する症状に合わせて処方が変わります。また、服用する患者さんの体力や体質を考慮します。その見立てが結構たいへんで、すべての風邪に葛根湯(かっこんとう)というわけではなく、見立てを間違えると症状が悪化することさえあります。
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