安楽死の現実に向き合った看護師が到達した結論 がんに苦しむ若い女性の希望を医師が拒むとき

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正直、彼女の気持ちもわからなくはなかった。私もかつては「患者は誰しも安楽死を遂げる権利をもつ」と考えていたからだ。

たとえ患者がまだ若かったとしても、例外にはならないと思っていた。看護師になって間もない20代前半のころ、私は医師とともに自殺幇助を行ったことがある。患者は末期症状に苦しむ若い女性だった。あのとき、同僚は誰ひとりとして手伝おうとはしてくれなかった。

その後も私は、安楽死はすべての患者に与えられた正当な権利だと思っていたし、医師が安楽死を拒んだときは少なからず腹を立てていた。

ところが最近になって、私の考えを大きく揺るがすできごとが起こった。

実はその2カ月前、私の息子が心臓発作を起こし、この病院で治療を受けていた。入院中、私は言葉にならないほどの不安にさいなまれながら、ベッドサイドに腰を下ろして息子を見守った。

あの若い女性のベッドサイドには、2カ月前の私と同じような顔をした母親の姿があった。私の息子とその母親の娘は同い年だった。

私の息子は無事に回復したが、その母親は娘にお別れを言わなければならない。

納得できない母親

とはいえ、その女性の娘が「人生を終わらせたい」と望む気持ちは、私にも理解できた。結局のところ、それは彼女の人生であり、決定権は彼女自身にあるのだ。

でも、そのことを彼女の母親に伝えたとき、私はいろいろな意味で居心地が悪くなった。
安楽死を決断するのが早すぎる、とその母親は声を荒らげた。そして、私の目を見据えてこう言ってきた。

「あなた……自分の子どもが同じ立場になったとして、同じことが言えるの?」

その言葉は、私の胸に深く突き刺さった。その母親の気持ちは痛いほどよくわかった。

最終的に、彼女の両親は娘を家に連れて帰った。そして数カ月後、彼女は亡くなった。
あれ以来、私の若い患者への接し方はすっかり変わったように思う。

それまでずっと、患者の家族が患者に苦しい闘いを続けさせようとするのを見るたびに、私はなんともいえない苛立ちを覚えていた。

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